第2話 震撼


初村隗は、「覚醒」した。

それが、初村家の不幸の始まりだった。


隗が、目覚めたことを、両親は何故か喜べなかった。


可奈にも、紀実にも、その事実は伝えられないままだった。


隗は、昔の部屋に戻ってきた。

「昔のままだね。」

両親は、取り繕うように、頷いた。


「また、テニスをやるよ。」

隗の言葉に、両親は、

「無理せず、しばらく休んでいなさい。」

と、言うばかりだった。


隗が帰ってきてから、両親の外出が増えていった。

「料理は作ってあるから」

母親はそそくさと言うと、母親会に出かけていった。


父親は、毎日の帰宅が遅くなっていった。


「母さん、今度、コーラスを習いに行くから。」

隗にそう言うと、コーヒーを注いだ。


ばらばらの家庭生活の中、テレビだけが、唯一の社会との接点だった隗。

その隗の気持ちは、晴れなかった。


すれ違う家族の毎日が、続いていった頃、

また、芸能界の事件がテレビで報道された。


木戸さやかの娘の誘拐事件だった。

誘拐犯は、二週間で捕まり、娘、妙子は、さやかの許に返された。


新日本銀行の高塚支店に、銀行強盗が立てこもった。

事件は、行員の一人の死亡という結果となった。


寒々とした師走の東京の事件として、世間を震撼させた、「闇の二か月」の始まりだった。




―完―

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ショートホラー「覚醒」 棗りかこ @natumerikako

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ