第29話 お泊り会、準備

「悪いな遥。付き合わせて」


「ううん、泊まらせてもらう側なんだし、手伝うのは当然だよ」


 週末。学校が終わって放課後になった。

 今は遥の泊まりの荷物を遥の家に取りに行き、その帰りに必要なものを買った帰り道だ。

 和仁と柏木はそれぞれ家に荷物を取利に戻って、それから来るらしい。


 俺と遥はそれぞれ両手に袋を持って、俺の部屋の前に立った。

 

「陽菜ー、有彩ー、悪い開けてくれー」

 

 扉越しに聞こえるように声を上げ、扉が開くのを待つ。

 数秒ほど待って、中から扉が開けられた。


「お帰りなさい、理玖くん。小鳥遊くんもいらっしゃい」


「おう、ただいま」


「お邪魔します、竜胆さん」


 先に入っていく遥と有彩がお辞儀をし合うのを、後ろから眺めつつ、俺も部屋の中に入る。


「あ、袋1つ持ちますよ」


「ああ、サンキュー」


 有彩の言葉に甘えて、俺は軽い方の袋を手渡した。

 

「ふふっ」


「ん? どうした?」


 袋を手渡された有彩がなぜか嬉しそうに微笑んでいる。

 

「い、いえ……なんだかこうしていると、私と理玖くんが、その……ふ、ふうふみたいだなって思ってしまって……」


「あーなるほどな。でも有彩って料理も出来るし、可愛いし、いい奥さんになりそうだよな」


「ふぇっ!? か、かわっ!? おくさっ!?」


「うおっ!? 有彩!?」


 ボンッと顔を爆発させてよろけた有彩を咄嗟に支え、そのままリビングへ。

 荷物を手から預かり、有彩の身体をそっとソファに預けた。


「なになに? 有彩どうしたの?」


「いや、なんかいい奥さんになりそうだって言ったらこうなった」


「なにそれ!? 有彩ずるい!」


「今の会話の中に羨ましがる要素なんてあったか?」


 首を傾げながら、問うように遥を見ると、まるでアメリカ人のように肩をすくめるだけだった。

 一見芝居がかった仕草だけど、遥がやると絵になるというかただ愛嬌がある。 

 

「まあいいや。よっと」


 机の上に買ってきたものを置き、中身を取り出していく。

 買ったものを一応確認していくためだ。


「えーっと……食料に飲み物、足りなくなっていた日用品に、和仁撃退用の道具っと。よし、買い漏らしはないな」


「待って!? 今なんか変なものが混ざってなかった!?」


「変なもの……? どれだ?」


「これだよ! この食材や日用品に混ざって置かれるには物騒すぎる鈍器と凶器の数々! なにこれ!? 1番数が多いんだけど!?」


「そう言われても……1番必要なものだろ」


 その中の1つ、手頃なサイズの金槌を手に取って軽く振る。


「あいつが俺たちの秘密を知ったら、記憶を消し飛ばさないといけないからな。最悪存在ごと抹消すればいいし、そのための手段は多い方がいいだろ?」


「いやそんな名案かつ当たり前だろみたいな言い方されても僕はそれに賛同しかねるんだけど……」


 遥は机の上に並べられた鈍器を見て、ため息をついた。

 そして、陽菜と有彩の元に近づいていく。

 俺は買った食材や日用品を冷蔵庫に入れたりして整理していく。


「ねえ、本当に時々思うんだけど、高嶋さんと竜胆さんは一体理玖のどこが好きなの? あれを見てると疑問で仕方がないんだけど。まあ、ああいう部分も含めて友人として好ましく思ってるのは僕も一緒なんだけどさ」


「え? うーん、全部かな」


「私も最初は優しいところとかありきたりなものでしたけど、今は全部ですかね」


「……はあ、ごちそうさまです」


 ……? 小声でなに話してるか聞こえないけど、なんで遥がもうお腹いっぱいですみたいな顔してるんだ?


「というか、陽菜と有彩はともかくとして、柏木も本当に泊めるのか?」


「どういうこと?」


 問うと、陽菜が返事をしてくる。

 

「いや、どういうことって……この状況に慣れてるからおかしいと思わないんだろうけど、男子と女子が同じ家に泊まるのっていいのかって話だ」


 そもそも女子2人と同じ家に住んでるってこの状況がイレギュラーなわけで、普通に女子を家に泊めるのに抵抗がないかと言われれば、全くそんなことはない。

 

「言われてみれば……」


「そうですね……」


「そりゃ寝るとこは部屋を別々にすればいいだろうけどな。風呂とかどうすんだよ」


「「あっ……」」


 こいつらお泊まり会、って言っても勉強会だけど、それが楽しそうって感情に目がくらんでそういう部分に目が向かなかったな。俺もだけど。

 大浴場じゃあるまいし、家庭の小さな風呂場を男女兼用で使い回すのは女性的に抵抗があるだろうしな。


 俺? 陽菜と有彩とついでに柏木だろ? むしろ残り湯で泳ぎたいまであるね。

 とまあ、冗談はさておき……。


「どうする? 今更中止にするわけにもいかないしな」


「あ、女子はお風呂だけあたしの家を借りるとか!」


「いやいや、陽菜の家に迷惑かかるし、お前の家には凜がいるだろ。あとついでに親父さんも。状況的にはあんまり変わらない」


 それに同じぐらいの歳の女性陣が入った風呂を使うとか、思春期の衝動で弾け飛んで死ぬぞ、凜の奴。

 あと一々湯を抜いて入れ直すのも家計に優しくないしな。


「じゃあ銭湯を使うっていうのはどう?」


「まあ、それしかないよな。2人もそれでいいか?」


「あたしは大丈夫だよー」


「私も大丈夫です」


「んじゃ、それで決定ってことで」


 あとから来る和仁たちにも伝えないとな。

 そんなことを考えていると、インターフォンが鳴らされた。


「お、来たみたいだな」


 さて、先に来たのは和仁か柏木か、どっちだろうな。

 俺はインターフォンの来客確認用のカメラを覗き込んだ。

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