第8話

 メルルは、私にポーションの作成能力を付与すると言っていた。

 だけど、それは自力で作れってことなのかな?


 まずは室内に置かれているヨモギに似た葉をすり鉢に入れる。

 そして、すりこぎ棒で葉を丹念に砕いていく。


 ――ゴリゴリゴリゴリ


「少しずつ汁がにじみ出てきた」

「そのまま葉の形が無くなるまですり潰すニャ」

「はいはい」

「ハイは一回だけでいいニャ」

 

 ――ゴリゴリゴリゴリゴリゴリ


 室内に、すりこぎ棒とすり鉢が擦れる音が鳴り響く。

 私の作業を見ていたニャン吉が、籠の中のヨモギに似た葉を右手で吸い取ると左手をすり鉢に向けた。

 するとニャン吉の左手からヨモギに似た葉が出現してすり鉢の中に落ちた。


「え? 何、それ!?」

「メルル様から、右手で吸ったものは左手から出すように能力を与えられているニャ」

「へー」


 ――ゴリゴリゴリ


 私はすり鉢の中に入っている葉を汁になるまで潰す。

 頃合を見計らってニャン吉が、葉を追加してくる。

 無心になって作業をしていると、私はあることに気がついた。


「ねえ? それって一時的に体内に物を保管しているの?」

「そうニャ。アイテムボックスって言うニャ」

「そういうのって転生する人に付与する能力じゃないの?」

「メルル様が、転生する人だと使いきれないからと吾が輩に下さったニャ」

「猫より下に見られているとか……」

「安心するニャ、朱音にも小食という不作にも耐えられるハングリーな能力があるニャ」

「それ、能力じゃないから……」


 ――ゴリゴリゴリゴリ


 ニャン吉と話ながらも私は手を動かし続ける。


「ふう、こんなものかしら?」

「よくがんばったニャ。あとは、この粉末を入れるニャ」

「それって毒性がある葉だよね?」

「薬には多少のアクセントが必要ニャ」

「アクセントって……、料理じゃないのだから……」


 なんだか適当だなーっと思いながらも葉をすり潰してから液状になった薬の中に入れて混ぜる。


「完成ニャ!」

「ふう、疲れた……」


 もう両手の筋肉がパンパンで上げるのも辛い。

 次は、ハマグリの貝殻の中に薬を入れて蓋を閉める。


「えーっと、ひーふーみー……。153個だね。もう腕に力が入らない」

「傷薬を1個使ってみるといいニャ」

「え? だって売りものだよ?」

「きちんと使えるかどうか試してみないといけないニャ。朱音も、自分の傷薬の効果を確認しておいたほうが商売相手に教えることが出来るニャ」

「たしかに……」


 私は、ハマグリの蓋を開けて中に入っていた緑色の液体を疲労した筋肉や手に薄く塗っていく。

 皮膚に塗ると、ヒンヤリと心地よい。

 それと同時に、手と腕から疲労感が抜けていく。


「こ、これって……」

「疲労回復に、小さな傷口なら治せて、水虫にも効く傷薬ニャ」

「へー、異世界の傷薬ってすごいのね」


 素直に感想を口にしながら、お父様に見せる薬が出来たことに安堵の溜息が漏れた。

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