第9話

「ニャン吉! 大量に作るわよ!」

「了解ニャ!」


 私がすり鉢でゴリゴリと草をすり潰す。

 そして頃合を見計らって、ニャン吉が草を投入する。

 まるで、餅つきのように作業を繰り返し――。


「シャルロット!」

「お、お父様!?」

「に、ニャ!?」


 ノックもせずに扉を開けて入ってきたお父様に驚いて私は作業を止めた。

 ニャン吉は、テーブルの上でジッとしたまま座っている。


「お父様、薬が出来ました」

「これ全てが薬なのか?」

「はい。傷薬になりますって――え!?」


 夢中になっていて気がつかなかったけどハマグリに入れた傷薬が小山のように積みあがっていた。

 明らかに室内に保管されていたハマグリの量よりも多い。


「どうかしたのか?」

「いえ、少し多かったですか?」

「まあ、あって困るものでもないからな。何個か薬師ギルドに持っていくがいいか?」

「はい」


 お父様は出来たての傷薬を手にとると部屋から出ていった。

  

「何とか上手く誤魔化せましたね」

「お前の親父、チョロイニャ」

「それより、気になったことがあるのだけど……、お父様はニャン吉に気がついていなかったような気がするのだけど……」

「そんなの当たり前ニャ。精霊が普通の人間に見える訳がないニャ」

「そんなものなの?」

「そんなものニャ」


 ……なるほど。

 この世界の事情を私は詳しくは知らない。

 そもそも、言葉が話せて通じて文字が読めたから気にしたことはなかった。

 それに中世レベル程度なら日本の中学卒業レベルの学力を収めているなら千年以上は先を進んでいるだろうし。


「それにしてもたくさん薬が出来たよね」


 私は部屋の中を見渡しながらハマグリの中に詰めてある薬を手に取る。

 集中して傷薬を作っていたから気がつかなかったけど量が多すぎる。


「ねえ? このハマグリの殻って部屋に置いてあった量より多くない?」

「そういえば多いニャ」


 ニャン吉も、どうやらおかしいことに気がついたぽい。

 

「ニャン吉のアイテムボックスってアイテムを複製とかしていないよね? 出来ていたらチートだけど……」

「そんな非常識なことを全知全能の完璧主義の大地母神メルル様がするわけないニャ」

「それじゃ、薬が入っているハマグリを一個だけ手から吸ってみてから吐き出してみて」

「分かったニャ」


 ニャン吉が手から傷薬を右手で吸い込んだあと、左手で10個ほど傷薬を吐き出した。


「ニャン吉……、これってまさか複製チート……」

「仕様ニャ!」

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