第2話 マーリナの妹

 僕を騙したマーリナ=ファルカシュとの慌ただしい結婚式を終えたあと、僕は彼女から厳しい教育を受けていた。


 昼は剣と魔法の模擬戦。そして夜はマーリナのお人形さんとして可愛がられる日々。「いつか、絶望の花束を渡され消されるかもしれない」という恐怖の中、僕が夜役に立つことは一度としてなかった。業を煮やしたマーリナは、ある時最後通告を僕に突きつけた。


「あなたは本当にクズね。役立たずなのはわかったから妹に譲ることにしたの。今夜は私の妹のフィーネのところに行きなさい」

 マーリナの妹か?どんな子なんだろうか?彼女が絶望の花束の女である限り、僕が心を許せる相手ではなさそうだが。フィーネは魔法使いでいつも離れの魔法実験室に篭っている。マーリナに


「昼のうちに一度挨拶に行きなさい」


と命令されていたのでシブシブ魔法使いのフィーネ=ファルカシュに会いに離れへと向かった。ノックして部屋に入るとそこには本を静かに読む物静かな少女の姿があった。

「姉から事情は色々聞いています。リハドさん、あなたがどういう立場にあるか、ご存知ですか?」

 奴隷のようなものだろうな、と思っているとフィーネの口から出たのは意外なことに謝罪の言葉だった。


「ごめんなさい。姉も悪気はないんです。この国の元首であるファベル=ロベトゥーム様の直々の命令の工作ですから」

 なんだって?なんで妻の父親にあたるファベルが僕を陥れる必要があったのか?

「どういうこと?聞かせてくれるかな?」

 フィーネは軽く頷くと続きを話してくれた。

「奥さんのアデルさんとの間に子供が十年間できませんでしたよね?ファベル様はそれを案じておりました。子種がない男との結婚を許すべきではなかったと」

 僕は悔しかった。ただ、それだけの理由で騎士団長を追われ、妻を失ったことに。

「僕に子種がない、か……。そんなバカな!」

 親の贔屓目で娘が石女である可能性は全くと言っていいほど考えなかったに違いない。すべての責任は僕にあるということだ。


 フィーネは控えめにある申し出をしてくれた。

「あまり知られていませんが、子種があるかどうか?調べる魔法があるのですが」

「それが本当なら調べて欲しい。少なくとも、そうでないことだけは証明したい」

「あなたの精を採取しなければなりませんがご協力いただけますか?姉によると、そんなこと調べる必要もないわ、自明よ。とのことですが」

 マリーナの奴め。でも不甲斐ない自分が情けない。

「協力はしたいけど、最近調子が悪いみたいなんだ」

 と正直に打ち明ける。とその時だった。フィーネはいきなり僕に抱きついてきた。そして唇を奪う。な、なんだ?

「かわいそうな人……。きっと消されると思って怖がっているのでしょ?大丈夫私が守ってあげるから」

 なぜ、この少女は僕にこんなに優しいのか?

「実はあなたが子種がないことは私たち絶望の花束の女たちにとって好都合なのです、訓練で妊娠しては体が持ちませんから」

 そういうことか。これも男をたぶらかす為の「訓練」というわけだ。そしてどんなに体を交えても子一つできない僕は彼女たちにとって格好の訓練相手、というわけだ。工作を完了させ、訓練の相手も見つかる。一石二鳥ということだ。


「マーリナはあなたには子種がないと言った。でも私は慎重には慎重を重ねるべきだと思っている。それゆえ、あなたの精が役に立つか採取して調べさせてもらいます」

 そういうとフィーネは僕のズボンを下げ、だらしなくしているそれを優しく口に含んだ。彼女の舌が僕を優しく責め立てる。マーリナにはどんなにされても役に立たなかった僕だが、謝られたことで幾ばくか安心していたのだろう。程なく僕は彼女の口の中で果てた。彼女は口から試験管にそれを移す。

「ご協力感謝します。試薬を入れますね」

といって魔法の粉を試験管にいれると、なにも起きなかった。


「反応はないですね。合格ですよ」


 僕は不合格のほうが嬉しかったのだ。結局僕に子種はない、ということなのか。だからアデルの夫でいられる資格もない。彼女の父である元首ファベルの判断は正しかったのか?僕は泣きたかった。


























  







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