第11話 ライド・オン・タイム!

「タクシーの運転手が足りないらしいね」

 知事の手元には業界各方面からの要望が積み重なっている。

「どうだろうね、海外で活用されている『ライドシェア』を試験的に導入してみるというのは」

 知事の発案は即実行。

 上意下達は組織の基本。あっという間にライド・シェアの試行が始まる。


「どうも思わしくないんだ」

「ライドシェアか」

「ほとんど利用がない」

「素人だからなあ、ドライバーが」

 ライドシェアを始めて一か月、頭を抱える担当部署の幹部連。

「もうちょっと、プロがやってるっていう形にならないかなあ」


「という訳で、この度、県警に協力依頼がきた」

 ついにこんな日がこようとは!

 警ら部長の心の叫び。その場にいた全員の胸の内もまた同じ。

 とはいえ、メディアで大々的に報じられたおかげで、すこぶる好調なスタート。

 なんてったってパトカーである。これほど安全な乗り物はない。

 おまけに歩合制が導入されたものだから、みな積極的にお客を拾う。

 ただ一つ問題なのが、緊急時。

 違反車を見つければ、即追跡。停止を促し違反切符を切る流れ。

 乗客はといえば、パトカーが止まった途端、即座に有無を言わさずの下車。

 もちろん、お代は頂戴しない。

 そんなことをすれば、消費者トラブルになりかねない。


「うーん、じわじわクレームがきはじめたな」

 パソコンを睨む交通課長。

「急いでる時は、やっぱり」

「とはいっても、違反車を見逃すわけにはいかないし」

「ちょっと無理がありましたね」

 試行から三か月が過ぎ、課内ではそろそろ潮時かというムードが漂う。

 ところが、ある時から急に利用が伸び始める。

 それと時を揃えるようにスピード違反の検挙件数が上がっていく。


「バイパス沿いのショッピングセンターまで」

 警ら中のパトカーに乗り込む若者。

 バイパス道路に向かう交差点で信号待ちをしていると、目の前を猛スピードで横切っていく車が。

「緊急車両通ります!」

 赤色灯を点け、サイレンを鳴らし、赤信号をものともせず発進するパトカー。

「そこの車、停まりなさい!」

 違反車にみるみる追いつき、背後から停車を呼びかける巡査部長。

 その様子をスマホで録っている若者。

 素直に路肩に寄せて停車する違反車。

「申し訳ないですが、ここで降りてください」

 途中で降ろされてしまう若者。ショッピングセンターまではまだ大分ある。

 けれど特に不満そうな様子は、ない。

 その間に、巡査に促されて若者が違反車から降りてくる。

 すると一瞬、路傍の若者とアイコンタクトしたような…


「ねえねえ、見た?トオルちゃん」

「石川だ」

「すごかったねえ。赤信号無視して、大迫力」

「なんの話だ」

「ティッ○トッ○見ないの?」

「SNSはやらん」

「テレビの警察○○時みたいなのやってたの。この近所の道路なんだけど、すごいスピードで車追いかけてさ」

「ああ?」


 こうしてパトカーによるライドシェア事業は、一部好評?のうちに幕を閉じたのだった。

 







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