第10話 哀愁のウーバーポリス!?

「コンビニの売り上げが芳しくない」

「親会社が撤退をちらつかせ始めているそうだ」

「早急に手を打たないと初期投資がフイになる」

 県警本部では幹部連が頭を抱えている。


 数週間後、知事の会見による記者発表が行われる。

「この度、各交番において商品の宅配事業を展開することといたしました」


「おいおい、聞いてないぞ。俺たちに御用聞きに回れって言うのか」

 ネットニュースで初めてその事実を知った現場に流れる怒りと、またか…という諦めの嘆き。


「えー、新聞報道等で既に諸君らも耳にしていることかと思うが、来月から、交番単位で可能な限りコンビニ商品の戸別配達を実施することになる」

 新聞報道なら「目にする」だろう。もっとも、実際、署内は噂で持ち切りだから、みんな「耳にしてる」んだけど…。署長の訓示を聞いて何人もそう思っているのにはお構いなく訓示は続く。

「ただし、大手スーパーマーケットや通販事業者のようにインターネット環境を使用した受注体制はとらない。受持ち地域で戸別に訪問する『巡回連絡』をきっかけに、地域住民のニーズを募り、迅速に配達を実施するものとする」

 やっぱり御用聞きに回るのか。予感的中、しかし、誰一人、落胆を顔に出す者はなく直立のまま署長の訓示が終わるのをひたすら待つ。

「本事業は『巡回連絡』を基調として、一石二鳥、いや三鳥の効果を実現するものと期待している。以上である」


「過重労働だな」

「でも特勤手当が出るらしいぞ」

「どうせ一件百円とかだよ」

「で、一石三鳥って何のことだ」

「さあな、巡回と宅配と、何かだろ」

 

 こうして交番の宅配事業がスタート。

 熱心な署員は前にも増して巡回連絡に力を入れる。

「どうだ、注文は入ってるか」

「いやあ、なかなか」

 さもありなん。なにしろ注文票が交番ごとの手作り。品ぞろえがどうにも今一つ。

「お年寄りには好評なんですが」

 そういうことか。ネット難民のお年寄りのニーズの掘り起こし。

「毎日来て欲しいと言われてます」

 なるほど、三鳥めはお年寄りの「見守り」、安否確認。昨今の独居老人の増加に対応しているという訳。


「思ったように売り上げが伸びませんね」

「やはりネット注文にしないと」

「それはコンビニが通常の業務でやっている。我々には太刀打ちできない」

「宅配業務だけに特化するのはどうでしょう。配達はコンビニにとってかなり負荷のかかっている業務だと思われます。コンビニがWEBで受けた注文を我々が配達するんです」

 経理課職員のこの発言が、あれよあれよという間に具体化されて、すべての警ら用自転車のサドル後部に取り付けられている書類ケースが大型のボックスに取り替えられる。ボックス横には提携コンビニのロゴが。確かにそれまでハンドルにレジ袋をぶら下げて配達していた時より、使い勝手は格段に良くなったが。

「何が悲しくてこんなでかい箱付けて、お近くのコンビニまで荷物取りに行かにゃならんのだ」

 そんな現場の声の行きつく先はどこにもなく、めでたく『ウーバーポリス』のご誕生。

「おいおい、待ってくれ。まさか、次は…」

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