第7話 JKポリス?

「今年の一日署長、誰にします?」

「地元の有名人でいいだろう」

「呼ぶ予算がないんです」

「毎年呼んでるじゃないか、何とかなるだろう。野球選手かなんかでどうだ。二軍の選手だっていいじゃないか」

「今年はゼロ予算なんです」

「ボランティアで来てもらえばいいじゃないか」

「アゴ足代もないんで」

「まあ、当たってみてよ」

 副署長の御下命を受け、各方面に打診する庶務課長。

 けれど、どこからも色よい返事がない。

「ボランティアもダメか」

「ボランティアって言っても、それなりに、いくばくかのお金はかかるものですから」

「しかしなあ、今年は無しって訳にもいかんだろう」

「そうですね…」

 それを傍で聞いていた署長。ふだんは副署長に任せてあまり口を出さない彼が一言。

「女子高校生ってのはどうだい」

「はあ?」

 驚いて目をむく副署長。

「ほら、お菓子、売り込みに来た子がいたでしょ」

「ああ」

「地元に密着した警察署らしくていいでしょ」

 結局、署長の一声で、女子高生一日署長を招聘することに。


「マジ?いいけど…うちのガッコ、芸能活動とかNGだよ」

「芸能じゃないよ。公務だ、公務」

「だって、たいてい芸能人がやってんじゃん、一日署長なんか」

「署長なんかって言うな。校長先生には話を通してある」

「ふーん、ならいいか」

「地域密着型の警察署のPRだ。よろしく頼むよ」

「はいはい」

「『はい』は一回だ」

 署長室を出た彼女、うーんと伸びをして一緒に出てきた巡査に一言。

「ねえ、トオルちゃん」

「石川だ」

「署長さん、地域癒着とか言ってたけど、何それ」

「癒着じゃない、密着だ。地域の方々とともに歩む警察署ってことだ。分かってて聞くなよ。おまえのプリンもその一環だ」

「でもさ、あたしのガッコはこの街だけど、あたし、県外から通ってるよ。ほら、うち一応名門女子高じゃん」

「はあ?」

「まあ、いいんじゃない。誰も気にしないし。それよりさ、かわいい制服、用意しといてね」

「かわいいもなにも制服は決まってる」

「えー、スカートは短くしてよね」

「だめだ」

「いいもん、折るから」

 大丈夫か、一日署長。 


「みなさん、こんにちは~!」

 ショッピングモールのイベント広場に設えられたお立ち台から、ちらほら集まった観客に向かって手を振る女子高生署長。

 案の定、スカートはしっかり腰のところで折り返されて、完璧にミニスカポリス。

 お立ち台の下には、いつの間にやらカメラ小僧の集団が陣取っている。

 そんなことは微塵も気にせず、愛想を振りまくJKポリス。

 壇上、隣に佇む副所長。その笑顔は心なしか引きつり気味。

「署長、あれはまずいですよ」

 お立ち台の脇に居並ぶ幹部連。一人が署長に耳打ちする

「いやあ、元気があっていいじゃないか」

「そうじゃなくて。下に群がってるガキどもですよ」

「ああ、本人が気にしてないんだからいいんじゃない」

「いやいや、そういう問題じゃなく。曲がりなりにも警察のイベントなんですから」「まあ、大丈夫でしょ」

「何が大丈夫なんですか」

 そうこうするうち、イベントはつつがなく進み、警察音楽隊とカラーガードの華麗なるパフォーマンスで幕を閉じる。

 満面の笑みで控室に戻って来る女子高生署長。

「おまえ、そんなにスカート短くしやがって」

「あ、トオルちゃん、来てくれてたんだ。その私服、イケてないけど」

「大きなお世話だ。それより、あんな下から写真撮られて、恥ずかしくないのか」

「えー、なんで」

「だって、おまえ、その、パンツ…」

「あー、平気、平気」

 と言うと、スカートをまくり上げる。

「あ、やめっ」

「大丈夫だって、水着だから」

「水着って…そういうもんなのか。水着ならいいのか」

「可愛いでしょ」

 と、くるっと身を翻すJK署長。

「ねえ、休みなんだよね。なんかおいしいもの食べに連れてってよ」

「非番じゃない。一応おまえの身辺警護だ」

 と、そこへやって来る幹部連。

「いやあ、ありがとう。お疲れさまでした」

 署長はしごくご満悦な様子。

「ねえ、署長さん。この制服もらえるの?」

「何言ってんだ、おまえ」

「うーん、そういう訳にはいかないなあ。まあ、代わりと言ってはなんだが、これを差し上げよう」

 そう言って、大きな紙包みを渡す署長。

「何、なに?」

 受け取るとすぐに包みをやぶく女子高生。

「あ、ピーコロくん。レアじゃん。すっごい嬉しい」

 警察マスコットをもらって、これまたご満悦なJK署長、なのだった。



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