第6話 自転車でGO!

「歩道、走っちゃだめだぞ」

「わかってますよ」

 車道を驀進する自転車二台。

 目の前の停留所に停車するバス。

「停車!」

「停車」

 バスが発進するまで後ろについて待つ。

 その横を原付がバスを右側から追い抜いていく。

「発進」

 バスの排気ガスにまかれながら、後ろを走り続ける。

「トンネルです」

「点灯!後続に注意」

 二台は後ろを確認しつつトンネル内を突き進む。トンネル内の車道を走る自転車、これほど危険なものはない。

 やっとの思いで長いトンネルを抜け出た二台。トンネルを出て幅広になった歩道の脇に、歩行者と自転車の絵柄の標識。下には「ここから」の文字板。

「標識確認」

「確認!」

 二台は歩行者に気を配りながら歩道に乗り上げる。

「徐行」

「了解」

 日本の道路事情の中、自転車での警らはスリリング。

 しばらく歩道を進む二台。

 やがて歩道が狭まるところに差し掛かる。再び歩行者と自転車の絵柄の標識。下には「ここまで」の文字。

「車道に出る。後続確認」

 二台そろって車道に出たところ、後ろから来たバスにクラクションを鳴らされる。

「やってくれたな」

 二台、立ちこぎで、その場を全速力で走り抜ける。

 バスの運転手、なかなかの命知らずか。そのまま何事もなく停留所に滑り込む…。


「電動自転車、導入することはできないかな」

 いつになく下からのもの言いの警ら部長

「何をかったるいことを」

「いや、原則、警らは自転車としたのはいいが、丘の上の住宅街を所管する交番から悲鳴があがっている。若いもんばかりじゃないんで」

「徒歩で巡回すればいい」

 経理部長の無慈悲な返答。

「通常の装備だけでもそれなりの重量がある。これからの夏場、徒歩で炎天下の巡回は酷だ」

「夜間巡視にすればいい」

「それは暴論だ」

「夜間の方が、巡回の効果があるんじゃないか」

「夜間も、だ」

「具体的には何台あればいいんです?」

 助け舟を出す広報担当部長。

「十台。いや、二十台」

「それくらいなら、何とかなるんじゃないですか」

「いやあ、どうかな」

「じゃあ、こうしましょう。導入する電動自転車の企業広告をフレームに付けて、広告収入で配備費用を浮かせましょう。うまく持っていけば、配備費ゼロで行けるかもしれない」

「広告付きっていうのは…」

「背に腹は代えられないじゃないですか」

 この会話がきっかけで、事はより一層混迷を深めていく。


「なんか、どうなんだ、これ。すごく視線を感じるような気がする」

「いいじゃないですか。パトカーが目立つのは」

「だがなあ」

 不満げな巡査部長。

「とりあえず、ルーフだけだから、いいじゃないですか」

「当たり前だ。ボディに書かれた日にゃ、終わりだ。俺ゃ乗らん」

 電動自転車に企業広告を載っけて、費用ゼロで導入を果たした県警広報部。さらに一歩、いや百歩進んで、パトカーのラッピング広告に手を染めていた。

 ルーフに陣取る赤色灯を囲むように、企業の広告が描かれている。

 県警保有の車両に、順次ラッピングが施されていく。

 このままでは、ボディに広告が掲載されるのも時間の問題…。

 


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