第5話 歓迎?働き方改革

「自動精算機が導入されます」

「自分でバーコードかざして、スイカでピッとやるやつか」

「スイカじゃなくてもいいんですけどね」

「万引きを誘発しないか」

「交番で万引きするバカはいませんよ。カメラもあるし」

「何言ってんだ、監視カメラ、ないとこもあるじゃないか。全交番につけるのか?」

「『カメラ作動中』って目立つように掲示しとけばいいんですよ」

「詐欺だな。いいのか、そんなことして」

「パソコンのスカイプ機能オンにして、店の方に向けとけばいいんですよ。とりあえず映像は映りますから」

「その映像、誰が監視するんだ」

「だから、『カメラ作動中』ですよ。監視するとは言ってません」

「なんだかなあ」

「いいじゃないですか。これで警らに出て無人になっても、店をいちいち閉めなくてよくなるんですから」

「その精算機、誰が資金出すんだ」

「うちにそんな金あるわけないじゃないですか。もちろん、コンビニ側ですよ。今、上が交渉中です」

「誰が考えたんだ」

「若手のプロジェクトチームです。ああ、私もメンバーですけど」

「聞いてないよ。おまえ、四十超えてるだろ。どこが若手だ」

「若手なんかに任せといたら、クズみたいなアイデアしか出てこないんですよ」

「若手集めた意味ないな。そもそも、今の話だって、クズみたいなもんじゃないか」

「いやいや、多くのコンビニで、もう導入してますよ」

「なんだ、二番煎じかい」

「『若手』ってうたえば、聞こえがいいんですよ。仮に失敗しても『若いもんが考えたものだから』って逃げられますしね」

「ひでえな」

「誰も責任なんかとりたくないですからね」

 県警本部内で交わされる、またしても不毛極まりない会話…


「最近、ぜんぜんお店にいないじゃん」

「店じゃない、交番」

「いまさら何言ってんだか」

「例のプリン、結構評判だぞ」

「とーぜんよ。もちろんトオルちゃんも食べたよね」

「石川だ」

「おいしかった?」

「おまえに試作品、食わされただろ」

「ちがうちがう。ちゃんと商品になったやつ」

「いや、同じだろ」

「なに!食べてないの。今すぐ食べなさいよ」

「何が違うんだ」

「圧倒的においしくなってるの」

「なんで?」

「プロがちょっと手を入れたの。悔しいけど」

「へー。じゃあ今度な」

「いま!」

「仕事中」

「何にもしてないじゃない、ぼーっと立ってるだけで」

「立ち番」

「ほら、お客さん。レジ行って」

「大丈夫だ、セルフだから」

「この店、サービスなってないわね」

「店じゃない、交番だ」

「コンビニじゃない」

「さあ、そろそろ警らに行くから。帰った帰った」

「行くって、お店、カラになっちゃうじゃない」

「セルフだから大丈夫だ」

「マジ無人かよ」

「じゃあな」

「ちょっと、せっかく来たのにおいてかないでよ」

 ワンオペに強い味方のセルフレジ。

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