第44話
へそ
男は着々と「命の砂」を集め、大きな機械を設え、人々を使って企てを推し進める。
見上げるような槍は、その足元に、とてつもなく大きな漏斗(じょうご)を付け、何処かへ放たれるのを待ちわびている。
「命の砂」は「燃える石」に精製されて、機械どもを突き動かす。
男は言う。
「砂の海を『星』の『へそ』へ流し込む」
男は宙を見据える。
「『へそ』を穿つのだ」
ほどなく、男は、この「世界」全土へと船を走らせる。
砂の海で暮らす全ての砂人を拾い上げるために。
さらに、男は辿り着ける限りの「島(くに)」へ知らせを放つ。
「砂の海が一時に消え去る日が来る」と。
男は、恐るべきことを企てている。
かつての、神話の時代とも言える時に起こった出来事を、再びこの世界に引き起こそうとしている。
その成否の鍵は「命の砂」。
男は、穿つべく「へそ」の肝を何処にか定める。
それは、海嘯の沸き出(いず)る源だという。
男は、放った船が戻ってくるたびに、砂人を収容し、近隣の無人の島に住まわせる。
そこには、教育を施すための学び舎が設えられている。
「砂人は、決して異なった、劣った種ではない。山人と同じ『人』だ」
男は、砂人を「人」として扱う。
誰一人として異を唱える者はいない。
なぜなら、男は、莫大な「命の砂」の力を背景に、生活の質を高め、島(くに)の人々に何一つ不自由をさせていなかったから。
やがて、戻ってくる船が少なくなり、そして、ついに一艘も帰ってこなくなる。
男は言う。
「時は満ちたな」
男は宙を飛ぶ箱に乗り、天空高く飛翔する。地に「へそ」を穿つため。
そして、その箱が、日の光の中に溶け込んで消えたかと見まごうた時…
地平の一郭がゆがみ、信じられないほど巨大な砂煙を巻き上げたかと思うと、ほどなく、恐ろしいほどの地響きが島全体を揺るがした。
その後の光景は、正に、「神話」の語る海喪失の一場面のようだった。
砂の海は、初めはゆっくりと、次第に大きな力で引きずられるように、徐々に岸から沖へと遠のいていく。
見る間に抉り取られていく島の岸辺。
沖へと向けて深く深く沈みこんでゆく砂の面。
やがて、遥か彼方、空との境へとその端が消え去って、しばらくして後…
黒い線が…空との境の一点から、黒い線が左右に伸びてゆくのが見える。
それは、次第に太さを増し、少しずつ、こちらへと近づいてくるように広がり出す。
そして…
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