第43話

怒り


 私たちは、その島で随分と長い時間を過ごした。

 男は、地中の水脈を掘り続け、沸き出でる水を惜しげもなく人々に分け与える。

 一方で、男は、双子の月の満ち欠けの詳細な表を元に、島から遠く離れたところで起きている砂の海嘯を探し当て、そこにもたらされる「命の砂」を漏らさず手に入れた。

 儀式めいたことは排除して、空を飛ぶ箱に機械を乗せ、目的のものを持ち帰る。

「人柱など、意味はない」

 男は、「故郷へもどる」ため、この世界の仕組みを利用し、それと同時に、この世界の仕組みを変えようとしていた。

 男は、この世界に納得がいかないと言う。

「あるべき姿では…ない」

 男にとっての世界のあるべき姿とは…

 それは、彼が元いた「世界」。

 そして、古い書物に残された過ぎ去りし時の彼方に存在したというもう一つの「世界」。

 その二つの「世界」の架け橋となる「大槍」。

 男の想い描く世界観は、一つの使命となって、彼を突き動かす。

 蘇える海、満々と水を湛えた大海原…等しく人が水を手にすることのできる世界。

労苦から解放された人々が、皆ともに暮らす社会。

 そこに区別される「人」はいない。

 「砂人」…人でありながら人でないその在りよう。

 男は、それを認めない。

 それゆえに、男は水を汲む。機械の力を駆使して。

 そして、この世界の秘められた力を探り、今、正に我が物とせんとしている。

「見ろ、あれを」

空を飛ぶ箱から、遠く見える砂の丘を指して男は言う。

「動くぞ」

 それは、動く…滑るように。

「この砂の海は、表層を覆う膜でしかない」

 男は言う、自らに語りかけるように。

「膜は弾ければその内なるものが外へ…溢れる」

 男はその鍵を握っている。

 膜を霧散させるその鍵を。

「まだ足りない。まだ…」

 男は、自らの手で「命の砂」を集める。

 「命の砂」、その力。

 男の目に映る砂の海は、既にその姿を変えているのだろうか。

 その力が導き出すだろう青い海原に。

 男は「命の砂」を使って、何を、どうしようというのか。

 

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