第35話

の糧の砂


隊列は去り、私たちだけが取り残される。

置き去られた小袋が私たちをその場に引き止める。

淡い光が床を照らし、ひんやりとした空気が頬をなでる。

隊列の足音が遠く消えていく。

静けさに沈む薄ぼんやりとした空間。

運び込まれ、置き去られた小袋…

と、遠くの暗がりから、何かを引きずるような大きな音が近づいてくる。

やがて、それは大勢の人の気配に変わり、天井から差す薄明かりの中にその姿をあらわにする。

それは、大きな箱。

厚い金属で四隅を覆われた堅牢な器。

さらに、それを運んできた人々は、一様に異様な風体を薄明かりの中にさらす。

上から下まで動きづらそうな光沢のあるだぶだぶの衣装。

頭からすっぽりと被った面とも帽子ともつかないもの。

手には不釣合いなほど大きな手袋。

誰も彼もが皆同じ出で立ちで、その区別をつけることすら出来ない。

その異様な風体の人々は、一つ一つ小袋を拾い集める。そして、それを丁寧に金属の器の中に仕舞い込む。

慣れた手つきで、ゆっくりと、けれど無駄のない仕事振り。

やがて、すべての小袋を金属の器に入れ終わると、人々は、また、器を引きずって、暗がりの中に消えて行く。

後には、何もない、水に濡れた平板な床が、薄明かりの中にぼんやり浮かび上がる。

小袋の行方は…

しかし、その後を追う事は、どうにも憚られる…小袋を運び去った人々からは、追ってはいけない禍々しさが、色濃く漂っている。

私は逡巡し動けずにいる、と…

「行きましょう」

 女はすっと私の横をすり抜け、躊躇なく暗がりの中に足を踏み入れる。

私は女の迷いのなさに引きずられ、思わず歩を踏み出す。

体のどこかで身の危険を知らせる何かが蠢いている。

けれど、私は女の後につき従って、暗闇の中に入り込む。何の心の準備もないままに…

闇が私にまとわりつく。

心をよぎる、奈落に落ち込んで行くかのような不安。

行く先を導くのは床の上を引きずられていく鈍重な金属の摩擦する音。

あてどない暗闇がめまいを誘う。

女はそこにいるのか

いないのか…

私は手を差し伸べて闇をまさぐる。

指先に触れる肉の感触

肌の温もり。

女は私の手を黙って握る。

その温もりに、冷えきった闇の中、私は思わず身震いした。



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