第36話
火打ち場
音だけが聞こえる暗闇が私の周りを流れていく。
頼りは、引きずられていく器の軋み…。
その軋みが唐突に止まる。
私たちは行き場のない暗闇に置き去りにされる。
けれど、暗がりで立ち止まるわけにはいかない。
時をおけば、ますます居所が分からなくなる。
私たちは、手を伸ばし、すり足で進む。
しかし、手がかりは何もなく、暗闇は続いていく。
一足一足、道の先を求めて、私たちは歩を進める。
一足ひとあし…
と、突然、辺りに大音響が轟く。
空虚な空間が間段なく震え、耳を劈(つんざ)く機械音が、見えない要壁の中で気が狂ったようにとぐろを巻き始める。
私たちは立っていることが出来ずに、互いの体を支えるようにしながら、その場にしゃがみこむ。
耳を聾する大音声。何を語ろうとも、もはや、互いの声は意味をなさない。
やがて、金属音は、私たちの周りをくるくると文字どおり踊り始める。
まるで小さな部屋の中に押し込まれた子犬のように…
そう、それは小さな部屋。
気がつけば、私たちは目に見えない壁に四方から取り囲まれているようだった。
ほとんど耳元で泣き叫ぶ金属音。
正気を保つには、意識が遠のいていくに任せるしかない…
目の前で明滅するランプ。
ランプ…
明かり!
私は、目を見開くと、素早く辺りを見回した。
いつの間にかどこにも出入り口のない四角い部屋の中、引きづられてきた器とともにライトの光に浮き上がる私たち。
じっと見つめていても、部屋の壁は特に動いている様子もない。けれど、小刻みな振動が絶え間なく部屋全体をうち震わせている。
金属音の正体は知れず、音は私たちを包んで離さない。
が、ほどなく、金属音は不規則な不協和音に変わり、部屋の震えは大きなため息を一つついて、ぴたりと止んだ。
唐突な静けさ。
ライトだけが、気忙(きぜわ)しく明滅を繰り返す。
そこへいきなり人の声が響く。
「何者だ!何をしている?」
主のない声だけが、狭い小部屋の中に響き渡る。
私たちは様子を窺って答えない。
「そこを動くな!お前たちを排除する!」
声の主がそう言い終らぬうちに、床の一角に音もなく穴が開き、私たちはその中に転がり落ちた。
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