第33話

地中に続く道


私たちは、行列に付き従って、来た道を、また戻っていく。

元の姿を取り戻した太陽は、既に中天にかかり、メラメラと三つの目玉をたぎらせている。

一行は、楽の音を響かせながら、静々と進む。

そして、市都(まち)に辿り着く。

しかし、そこには、街人(まちびと)の姿はない。

天変地異に驚いたか、それとも、日差しを避けて建屋に潜んだか…。

行列は、人気のない街路を、楽の音に導かれるようにそろりそろりと進んでいく。

行く先は市都の中心。

街路は次第に細く入り組み、迷路の様相を呈し始める。

やがて、それは袋小路に入り込み、行き止まる。

けれど、行列は、何ら意に介するふうも見せず、そのまま歩みを進めていく。

楽の音が、袋小路いっぱいに鳴り響く。

その音は、三方の壁に反響し、耳障りな不協和音を醸し出す。

そうする間にも行列の先頭は、前方に立ち塞がる壁に、今、正に行く手を遮られんとしている。

 と、その時、突然、その壁が何者かに引きずり込まれたかのように、音もなく奥へと消え、その向こうに、闇へと続く傾斜路が姿を現した。

 先頭の者は、どこからともなく光源を取り出すと、それを翳して、斜道を下り始める。

 後ろの者も黙って後に続く。

 楽隊もいつの間にか楽を奏でるのをやめている。

 一行は、歩を進める規則正しい足音だけを残して、暗闇の中に消えていく。

 最後に私たちもその暗闇に足を踏み入れる。

 行く手に見えるのは、先行く者の翳した、ゆらゆらと淡い光りを灯す光源だけ。

 背後からの明かりで足元を確かめながら、私たちは列に付き従う。

 進むうち、その明かりも心もとなくなる。

しかし、行列は歩みを遅らせることもなく、暗闇を一歩一歩進んでいく。

背後でかすかにものの引きづられるような音がする。

振り向くと、既に手のひらの中に隠れてしまうほど小さくなっていた入り口の明かりが、すーっと狭まり、ぴたりと閉じるのが見える。

完全な闇。

私たちは、前を行く者の立てる足音をたよりに、一足一足、足元を踏みしめながら、先へ進む。

ゆるゆると下る滑らかな道。

規則的に踏み出される左右の足。

変わらずに続く体のゆらぎ。

どれほどの距離を進んだのか。

それとも進んでいないのか。

見えない暗闇の中で、体は感じることに疎くなっていく。

 と、突然、体が後ろに倒れる様な感覚に、思わず身を前のめりにする。

 ほどなく、それは己の体が後ろに仰け反ったのではなく、道が平坦になったための錯覚だと悟る。

 眠りかけていた五官。それが、体の中心から蘇ってくる。

 そして…

 自分たちが唐突に大きな空間に解き放たれた…それが、空気の肌触りのようなささいな気配の変化として、感じ取られた。



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