第30話


 行列は、楽の音を響かせて、市を抜けると、砂の海の岸辺を巡って、砂の原に突き出した岬の突端の白い塔へと辿り着いた。

 仮面の人々は、自ら輿を下り、塔の中へと入っていく。

 供の者は、誰も入ろうとはしない。

 私は入ったものかどうか少し逡巡する。

 けれど、女は迷うことなく、塔の中へと入っていく。

 私は慌てて後を追った。


 塔の中は、小さな広間が一つ。

 入り口の扉が一つあるだけで、ほかには窓すらない。

天井はかなり上まで吹き抜けになっていて、そこへ向けて、階段が螺旋に壁際を上(のぼ)っていく。

 仮面の人々は、くつろいだ様子で床に直に座り始める。

 しかし誰も仮面を取ろうとはしない。

 誰も何をするわけでもなく、ただ座っている。

 私たちも、その場に座る。

 無言の時間が流れていく。

 

 どれほどの時間が経っただろうか。

 気がつくと、小刻みな震えが床から伝わってくる。

 次第に、それは大きくなり、やがて塔全体を揺るがすほどになる。

 しかし、仮面の人々は、特に慌てる様子もない。

 やがて、ゆっくりと立ち上がると、螺旋の階段を上り始める。

 私たちも後に続く。

 壁際を三週半回ったところで階段は天井を抜け、上の部屋に出る。

 そこは塔の中ほどに設えられた小さな部屋。

けれど、下の広間と同様にどこにも窓がない。

 仮面の人々の何人かは、その場にまた座り込む。

 それには構わず、残りの人たちは、今度は反対回りに壁際を上っていく螺旋階段を、さらに上へと上り続ける。

 部屋の天井を抜けると、後は暗い塔の内壁を上へ上へと上り続けるだけ。

 遥か上には、外から差し込む明かりが見える。

 ぐるぐると何回螺旋を回っただろうか。

 ようやく、螺旋の端、塔の頂上に辿り着く。

そこは、四方に窓が切り取られていて、砂の海から吹きつける風が、ヒューヒューと音を立てて吹き過ぎていく。

 変わらずに地響きは塔を揺るがしている。

 仮面の人々は恐れるふうもなく、窓辺に集まり、外を見やる。

 おかしなことに、窓から射し込む光が、妙に薄暗い。

 それは、次第に塔の中の暗さに溶け込んでしまいそうに弱まっていく。

 私たちは窓に寄り、外を見る。

目の前に広がるはずの砂の海は、すっかり薄暗がりの中に沈んでいる。

ついさっき、夜が明けたばかりだというのに。

塔を揺るがす地響きが、さらにその揺れを増す。

私たちは暗がりに目を凝らし、眼前に広がる砂の海を遥かに見渡す。

 すると、そこには…

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