第26話

学(まな)び舎(や)


 その子供は唐突に路地の角から飛び出し、私の懐に体当たりをして、もんどりうった。

 それは、その纏っている衣服から山人の子供と分かる

 不思議なことに私は今までに山人の子供を見たことがない。

 王宮ではもちろんのこと、港やその市都(まち)においても。

 子供は砂人だけ…

 子供は、私を見ると、怯えたように、走り去ろうとする。

 私は思わずその手を握り、引き止める。

 子供は、手を振り解こうと身をよじる。

 女が私を制しようと身を乗り出す。

 子供は女を見る…すると、その顔に、驚きの表情が広がっていく。

「砂…人?」

 子供の口からこぼれ出た呟き。

 女は、優しく子供の頭に手を置いた。


 子供は、私たちを自らの家…居住区とでもいうのだろうか、その場所へと誘った。

 子供は砂人である女…にもかかわらず、山人の形(なり)、少なくともきちっとした身なりをしている女にひどく興味を持った様子だった。

 子供に案内された場所、そこは、大きな平たい円錐形をした屋根に覆われた、一続きの広間のような所だった。 

 そこには、何人もの子供…山人の子供が、子供ばかりで集まって何かをしている。

 いくつかの集団に分かれ、そこここに散らばって…

 勉強…

 一人が発言すると、誰かがそれに答え、またそれを受けて、もう一人が発言する。

 それは、討論…いや、知識の交換…

まさに何かを学びあっているという様。

子供だけで、大人は一人もいない。

私たちを誘った子供が、皆に声をかける。

顔を挙げる子供たち。

皆、女を見ると、一様に驚きの表情を浮かべる。

ほどなく女は、子供たちに取り囲まれ、質問攻めに合うことになる。 

 子供たちは皆聡明で、物怖じする様子がない。

 知識の習得にはすこぶる熱心で、こちらが思いもしないような質問を次々とぶつけてくる。

 気がつくと、あたりはすっかり暗くなってしまっている。

 それでも子供たちは気に留める様子もなく質問を続ける。

 誰かが、明かりを点(とも)す。

 子供たちは私にも質問を浴びせる。

 私は何者なのか。

 どこからやって来たのか…

 それは、私にも、分かりはしないのだけれど。


 

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