第3話
砂の船
私はその船に救い上げられた。
私を船に乗せた者たちは、私とどこも変わらない生き物…人間だった。
けれど、彼らは喋らない。話はおろか、唸り声一つ上げない。黙ったまま、ただ船に乗る。
私も、その船に乗せられたまま、何処(どこ)へともなく連れて去られる。
彼らは服を着ている。丈の長い布で出来た着物を腰に纏い、薄手の布地の上衣を羽織る。けれど私には着る物を与えない。
私は変わらずに素裸のまま彼らと共に船に乗る。
やがて三つの太陽が順に砂の原…砂の海の縁に沈み、あたりは夜を迎える。
空には降るような星々。夜空一面瞬く星粒に彩られる。その中を渡っていく小さな月と大きな月。砂の海は、波打つ自らの影を映して怪しく闇の果てに消えていく。
彼らは日に一度食べ物を取る。パンのようでいて、ひどく固くて味けない物、そしてほんの少しのぬるい水。
私にも同じ物が分け隔てなく与えられる。
私は与えられるままにそれを口に運ぶ。空腹であるようでいて、食べ物はそれほど欲しくない。喉だけがやたらと乾く。けれど、彼らは驚くほど水を飲まない。それとも、私と同様に乾きに耐えているのか。
彼らは動かない。ただひたすら船の上に座っている。
何もしなくとも、船は砂の上を滑る。
砂が船を何処(いずこ)へかと運んでいく。
繰り返される何もない日々。私は時間の感覚をなくしていく。
時折、船は人を拾う。
私が、そうされたように。
たいていは一人。時に二人、まれに三人まとまって…
人は何もしゃべらない。ほとんどの者が何も着ていない。
船に乗る者たちにされるがまま。
砂の海に、ただ佇(たやず)んで、何かを待っている。
船に拾われるのを…それとも
ある昼下がりのこと、私は船縁(ふなべり)から砂の波を眺めていた。
すると、砂の畝(うね)の中から、頭を擡(もた)げては、また消えていく何ものかが見える。
何…
それは、砂の海に住む魚…
力無く甲板に座している拾われた者たちは、その生き物の姿をじっと目で追う。
砂の海に佇む者…
それは、いつ現れるとも知れないその生き物をひたすら待って生きながらえる者。
そういうことか。
船は、また一人、佇む人を拾う。
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