第2話
星の砂の海の辺(ほとり)で
暑かった。どこかでそんな同じような記憶が頭の中で波打っていた。
私は砂地の上に寝ている。大の字になって。そう、私は寝ている、私は、ここで。
私は誰だ。
ここは…
砂地。
起き上がると、星屑のような砂がキシキシ音をたてながら、私の回りで渦を巻いた。
立ち上がり、見渡すと、果てしなく続いているように見える砂の壁が波打っている。
どこまでも、どこまでも。
私はただ見つめる。
容赦なく照りつける日の光。風一つ吹かない、音のない世界。
ああ、喉が焼けるように痛い。声が出ない。
どこか遠くの方に消えていきそうな意識の底。
ふと我に返ると、あたりの景色がすっかり変わっている。
私は少しずつ沈みながら、砂の上を運ばれている。
音もなく姿を変える砂の壁。
砂の波。
それは、まるで、砂の川…砂の海。
浮かぶでもなく、埋まるでもなく、おぼつかなくまとわりつく足下の砂。
私は服を着ていない。
何も着ていない自分。不自然な自分…
為す術もない。
私は、そのまま砂の上にまた身を横たえる。
どこへともなく運ばれる私。
私は…
ここは…
ずいぶん長いこと横たわったまま目を閉じていた。
開いた目に射し込んでくるのは、変わらずに揺らめく光の束。
薄ぼんやりと黄色い空には、まともに見つめることを許さない光の玉が、一つ、二つ… 道理で暑いはずだ、お日さまが三つも出ているなんて…
私は遠く彼方に行ってしまった意識の縁で、何となくそう考える。
砂は相変わらずどこへともなく私を運んで行く。
いや、本当はどこにも運んでなどいはしない…
私は、砂の熱さに身もだえる。
生きているのか死んでいるのかも区別がつかない。
自分が何者なのかも分からぬまま、何処(いずこ)とも知れない所で干涸らびてしまうのか…
もう遙か彼方、消え入りそうなほど遠く離れてしまった私の心が、そう言って嘆いているのが聞こえる。
ああ、目の前が暗くなってきた。本当に、もうこれでお終いだ。
お終いだ…
そんな、バカな!
そう思って見開いた目に飛び込んできたのは…聳え立つ大きな黒い塀、木で出来て、反り返った…
それは、砂の上を、音もなく滑る「船」の舳先だった。
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