自主企画と関係ないけど

谷津さんの妄想が止まらない。。。

 その男はひょろっと背の高い寡黙な男だった。

 音もなく近づき、私の肩をそっと叩く。


「あぁ、やっと私の番が来たんだ」


 言葉はなくとも、私は彼が何をしようとしているのかすぐに理解する。私もその時を待っていたのだから。


 静かに立ち上がり、彼にやさしく導かれるままに隣の部屋の奥へとついて行った。

 彼が私を座らせる。私は素直に従う。


 次の瞬間、彼は私の体を横たえさせた。そして、髪をやさしく撫でる。熱いものが、瞬時に私の皮膚を駆け巡る。

 何という快感だろう。彼の指にもしだいに力がこもる。


「あぁ……」

 あまりの心地よさに、私の口からは声が漏れそうになる。でも、気恥ずかしくて、必死に堪える。身も心もこんなにも陶酔していることを悟られたくない。私は、まだ彼に心を完全に開いてはいないのだ。


 それにしても、何というテクニックなのだろう。彼の指の動きには隙がない。至る所を間断なく攻めてくる。時には強く、時には柔らかく、長く、そして短く。


「あぁ、そこをもっと、もっと強く……」

 私が声に出さずにそう願うと、まるで彼は察知したかのように念入りにそこを攻める。

 まるで、あうんの呼吸。

 私の快感は頂点に達しそうになる。


「お願い、早くあそこを……」

 半ばしびれを切らして心中で願うと、彼は私を少しだけ持ち上げて、うなじに軽く指を滑らせた。何というやさしい指さばき。まるで魔法のような愛撫。


 しかし、またじらすように、彼の指はほかのところへさまよって行った。


 ずっと、いつまででも、彼の愛撫を受け続けたい。それだけで、女をこんなにも酔わせてしまうなんて、いったい彼は何者だというのだろうか。


 でも、私にはわかっていた。この悦楽の時は、永遠には続かないのだ。


「あぁ、もうすぐ終わってしまう……」

 はたして、熱き潮流の源は唐突に閉じられ、彼は私の濡れた穴をやさしく拭ってくれている。それさえも、「もっと、その指を奥へ、お願い……」と念じてしまう、どうしようもない私。


 そして。

 恍惚の時を経て、すっかりメロメロになった私をやさしく起こすと、彼はふぅわりとタオルをかけてくれる。


「こちらへどうぞ」

 なすがままに弄ばれて髪もすっかり乱れてしまった私を、あくまで紳士的にエスコートしていく彼。いくらこちらがお金を払っているとは言え、秘密の合図のような笑顔は反則だ。そうやって、何人もの女を虜にして来たに違いないのだ。


「私は、騙されないわ。これは、あくまでもお金の介在する関係。体は許しても、心まで虜になってたまるもんですか」


 ウィーン……

 ドライヤーの熱風を浴びながら、私は少しずつ現実に戻っていった。。。


 今日も、遅くまで一人残業をしていた経理の谷津さんは、そこまでパソコンに打ち込むと、一つため息をつき、そそくさと電源を落とした。


「伝票仕事をするはずが、妄想のせいですっかり遅くなってしまったわ。仕事はまた明日。。。」

 そう思いながら電気を消し、事務所をあとにした。

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