会社を辞めて失踪したらどうなるか試してみた

蒼瀬緑

第1話もう疲れちゃった

『はい、もしもし』

 標準的な一軒家のインターホン越しに、この家の主婦と思われる女性の声が聞こえて来た。

「あ、もしもし。私、インターネット回線のご提案に参りました佐藤と申します」

『営業なら結構です』

 ガチャッ

 無愛想に途切れるインターホン。

「あ……はい。ですよね」

 虚しくこだまする僕の言葉はこの家の奥様に届く事はなく、それはただの独り言になった。


 なぜ僕は営業の仕事なんてしているのだろう?

 思えば子供の頃から人と話すのはあまり得意ではなかった。

 なんとなくこれからはITの時代だなんて思ってそれらしい企業に就職してみたけど、配属された営業部では鳴かず飛ばず。

 ああ、今月のノルマも達成できず、また課長に怒られるだな……。そんな嘆きがただただこみ上げるばかりであった。


「お前、入社して何年だ?」

 帰社し、今日の営業成果を報告すると、課長は眉間にシワを寄せてそんな事を質問して来た。

「3年です」

「で、入社半年の新人に営業成績で負けてるよな?」

「はい」

「『はい』じゃねぇよ! お前恥ずかしく無いのか!?」

 課長の怒声が所内に響くと、次の瞬間部屋がシンと静まり返った。


「辞めます」

 気がつけば僕の口からそんな言葉が漏れていた。

 そしてそのままカバンを持つと、会社を出てしまった。

 課長が何やらゴチャゴチャ言っていたけど、気にするのはやめにした。



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会社を辞めて失踪したらどうなるか試してみた 蒼瀬緑 @aokawamidori

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