第89話 素敵な夏の思い出

 小鳥の鳴き声が聞こえてくる心地好い朝。


 今日はお泊まり会の最終日。


 穏やかな光の差し込む食堂のテーブルに、朝食が並べられていく。しかしまだ、誰も部屋から出てきていない。それはおそらく、昨晩それぞれの部屋で色々のことが行われていたからだろう。


 マユリは珍しく、夜更かしをした。サクラの話が面白かったからだ。何と言っても、普段は聞けないの話をたくさん聞くことが出来たのが嬉しかった。マユリとしては、とても満足の一晩。なので、ついつい深夜一時まで起きてしまったのだった。



 ハルカはアリスと女子トークに花を咲かせた。最近のファッションや流行りのスイーツ。学校にいる面白い先生の話なんかもした。もちろんハルカは、喋りの合間合間にお菓子を食べることを忘れない。

 そんなハルカの姿を見たアリスは・・・尊敬の眼差しを向け続けた。


 わんぱくでかわ美しいですわぁ🖤


 アリスは完全に同性にしか興味が持てなくなってしまった。しかしそれもしょうがないこと。何故なら、アリスの周りにはあまりにも魅力的な女性が多過ぎるからだ。

 将来、アリスはこの場にいる誰かと結ばれることになるのだが、それは今は誰も知らない事実だった・・・



 ミカはほむらに、まず最初に謝られた。誕生日会で、あんな人形を渡してしまったことを詫びているのだ。今までちゃんと謝ることができなかったので、ほむらとしては今回同室になれたのはいい機会だった。

 そしてモヤモヤが晴れたところで、今まで撮り貯めておいたマユリのお宝画像集をお互いに見せ合い、悶絶しながら朝まで過ごしたそうなのだが・・・


 ・・・ほむらは二日連続徹夜なのだが、大丈夫か?



 ヒメノはサラに、彼女の武勇伝を聞いた。今までサラが対峙した強者達の話は、いい刺激になった様だ。

 その中でも、『水芸のかおり』との闘いが一番ヒメノの興味を引いた。彼女の存在はヒメノも知っていたのだ。水芸というからには、水を使って闘うイメージだがかおりは違う。かおりは水を操るのではなく、水に操られながら闘うという、他に絶対真似ができない戦闘スタイルが有名だった。

 ・・・水に操られるって何?

 それはともかく、そのかおりと互角に渡り合ったことがあるとサラはいうのだ。残念ながら勝敗はつかなかったそうだが、それでもヒメノからは尊敬の眼差しが送られた。

 深夜まで話が盛り上がる二人。ヒメノとサラ、意外にもこの組み合わせは相性が良かったのかもしれない。


 ・・・


 朝も9時を回り、マユリ以外の皆が食堂に集まってくる。今日の朝食はヒメノのメイドさん達が用意してくれたカツサンドだった。朝から実にボリューミーである。

 流石に全部食べきれない子もいたが、残したものはハルカがキレイに食べてくれた。

 少しして、マユリが二階から降りてくる。

「ごめんみんな!お待たせしました。」

 朝食の時間を皆と合わせられなかったことを謝るマユリ。だがハルカ以外の女性達は、驚きのあまり口を半開きにして黙ってしまった。

 今日のマユリの格好も凄くいい。サクラ色のカッターシャツと清楚な白いロングスカート。腕にはシルバーのブレスレット、頭にはかわいいハート型のヘアピンを付けている。実に、女の子らしい服装だ。

「おお~、今日もかわいいじゃん。どうしたの?昨日の服といい・・・マユリ、こんな服持ってたっけ?」

 感動の声と同時に、見慣れない服装のマユリに疑問を抱いたハルカ。

「何日か前、凄くいい店員さんに勧められて買ったんだよ。ボクがこういうの着られるのってこういう場だけでしょ?。だからちょっと冒険してみたんだ。」

 照れながらマユリは言った。モジモジしている姿も実にかわいい。

「いいよいいよ。とっても似合ってる。別に普段からそれ着ればいいじゃん。きっとモテモテだよ?」

 誉めながらも、からかうように言うハルカ。

「え~、モテたいわけじゃないしなぁ。でも似合ってるんなら良かった♪」

 ハルカとマユリだけで話が進む中、他六人は未だ誰も何も言わなかった。見とれていたのだ。

 しかし、先程のハルカの言葉を思い出し、一斉に口を出してきた。

「スッゴクかわいいです!マユリ先輩!」

「ほんと、天使ですか!あなた様は!」

「お姉さま、ずるいくらいかわいすぎますよ!」

「マユリさん!美しいっす!」

 少女達はそれぞれ最初に思ったことを口にする。そして・・・

『でも、これ以上ライバル増やさないで下さい!』

 と声を揃え、一斉にマユリに訴えた。

「??えっ、ライバルって??」

 マユリには何のことだかわからない。隣ではハルカが頭を抱えている。確かにこの格好で街中を歩いたら、マユリは男女問わず惚れさせてしまうかもしれない。少女達はそれが怖かったのだ。

「まあ、あれね。確かにマユリ一人で歩くときはその服装はしない方がいいかもしれないね。」

 少女達の想いを汲み取ったハルカは、マユリにそう告げた。

「ええ~!」

 残念そうな声をあげるマユリ。折角少しずつ女の子の格好が出来るようになってきたと思ったのに・・・そしてそれを認めてもらえたと思ったのに・・・マユリはあからさまに肩を落とした。

「でも大丈夫。あくまでも一人の時は、だから。今度その格好で遊びにいこうよ。ナンパ野郎はあたしが蹴散らすからさ。」

 落ち込むマユリに耳打ちするハルカ。他の子達に聞こえたら、またなんやかんやとうるさそうだからマユリにだけ聞こえるように言ったのだ。

「ハルカ・・・」

 潤んだ瞳でハルカを見つめるマユリ。もう正直、この二人付き合っちゃえば?とも思うのだが、お互いにそういう感情はない。二人の間には恋とは違う、もっと深い家族のような絆があるのだ。

 

 約一時間、散々マユリを褒めちぎった少女達は各々部屋に戻り、帰りの支度をした。その後サクラが忘れ物がないか各部屋を再確認し、帰宅の準備が完了する。

 少女達は荷物と一緒に車に乗り込んだ。サラもサクラも別荘の戸締まりをした後、遅れて車に乗る。

 後で掃除が大変そうな凄惨な状態の2部屋はそのまま残して、ゆっくり走り出す車。因みに帰りもサクラの運転だ。



 遠ざかっていく別荘。

 


 名残惜しいが、それぞれがそれぞれの日常に帰っていく。

 あっという間に過ぎ去った、思い出の夏旅行。きっと、彼女達の心にいつまでも残り続けることだろう。

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