第90話 マユリ妹と後輩達
今日は夏休み最終日。
マユリはナノハと一緒に近所の公園に来ている。朝も少し早い時間だった為、遊具はガラガラだ。そんな選び放題の遊具の中、姉妹はブランコを選択し、遊ぶことにした。
フゥ・・・
これで多少時間を稼ぐことができるかな。
マユリはこの公園に、ナノハをいさせなければならなかった。何故ならミカ達に、例のプレゼントを夏休み中にサプライズで渡したいとせがまれ、待ち合わせ場所にしているからだ。
しばらく遊んだ頃
今はもうナノハはブランコに乗っておらず、姉の繰り出すブランコの曲芸乗りに歓喜の声をあげていた。
そんな姉妹に近付く一人の女子。
現れたのは・・・
「おはようマユリ、ナノハちゃん。」
ハルカが二人に声をかけながらやって来た。
「あっ、ハルカちゃん!わ~い、一緒に遊ぼ!」
ナノハは無邪気にハルカに駆け寄ると、その手を引き、マユリの元まで戻ってくる。
「ねえお姉ちゃん。ハルカちゃんもいることだし、3人でゲームセンター行こうよ。今からなら丁度開店するくらいの時間に着くし。」
ミカ達が来ることを知らないナノハは、当然何の迷いなく、この場を離れようとする。
「ちょっと待って。もう少しだけここで遊ぼうよ。ほら、今度は鉄棒で遊ぼ。」
「そうだよ。折角こんなにも遊具使い放題なんだから。
何とかナノハを引き留めたいマユリとハルカ。もちろんハルカも協力者の一人だ。
「ええ~。でもあたしスカートだから、逆上がりなんかしたら丸見えになっちゃうよ。いくら誰もいないからって、それはやだなぁ。」
うぅ・・・確かに。ナノハの言うことはごもっとも。しかしここにいてもらわなければ・・・
公園内にある様々な遊具を勧めるマユリとハルカだが、ナノハはあまり乗り気な返事をしない。
どうしたものかと悩む二人。その時だった。
「マユリせんぱーい!」
遠くから聞こえてくるミカの声。ミカ達が予定より少し早目に来てくれたのだ。
よかったぁ。
ほっと胸を撫で下ろすマユリとハルカ。しかしナノハは、会ったことのないほむら以外の美少女達に警戒する。おそらく姉の後輩達なのだろうということはわかる。だが、何故ここに来たのだろう。
ナノハは咄嗟にマユリとハルカの後ろに隠れてしまった。
そんなナノハを見て、微笑むマユリ。そして彼女達を紹介した。
「ナノハ。この子達はね、ボクのかわいい後輩達なんだ。ほむらちゃんとはこの前あったよね。」
「ヤッホー。久しぶりナノハちゃん。」
陽気に挨拶するほむら。
「お久しぶりです。」
ナノハはマユリの後ろからちょこっと顔を出し、挨拶を返す。
うわっ、かっわいい~🖤
オドオドと恥ずかしがっているナノハの姿がほむらの母性をえぐった。
「で、この子がミカちゃん。名前は知ってるでしょ。」
「はじめまして。ミカです。」
「は、はじめまして・・・ナノハです。お名前はよく姉から聞いてます。」
マユリの隣に立ち、ナノハは丁寧に頭を下げた。
おお~、礼儀正しいし、恐ろしくかわいいな。
いや、それよりも・・・マユリ先輩あたしのこと家で話題にしてくれてるんだ!スッゴク嬉しい🖤
マユリにキラキラ目線を送るミカ。当然のようにハルカは頭を抱えた。
「こちらがアリスちゃん。」
「ごきげんよう。ワタクシ、アリスと申します。」
「あっ、ごきげん・・・はじめまして。ナノハです。」
つられてごきげんようと言おうとしたナノハだが、それはやめた。自分らしくないと思ったからだ。
あら、さすがマユリ様の妹様。ムラムラしますわ。
お嬢様の皮を被った野獣が、その目をギラリと光らせた。
「最後にこの子。ヒメノちゃん。」
「オッス。オレヒメノ。宜しくな。」
「あっ、えっとこちらこそ宜しくお願いします。」
ヒメノの一人称、『オレ』に戸惑ってしまうナノハ。しかし、自分の姉が『ボク』と言っているのだ。直ぐに受け入れることにした。
へへっ、さすがマユリさんの妹。オレの腹が撫でてくれと疼いてるぜ。
強者を感じ取ったみたいなこと頭の中で考えてるみたいだけど・・・ぜんっぜんかっこよくないからね!
・・・
何でお姉ちゃんの後輩さん達が集まったの?
ナノハはマユリを見上げる。その視線に気付いたマユリは、優しく微笑んだ。
「今日皆が来たのはね、ナノハにプレゼントがあるんだって。」
「プレゼント?」
首を傾げるナノハ。今日は誕生日ではないし、何かお祝いするような特別な日ではないはず。ただ・・・夏休みになると、あの事件が頭を過るだけ・・・
「まあまあ、取り敢えず受け取ってください。」
アリスは半ば強引にナノハにプレゼントを渡す。そんなに強く押し付けられた訳ではないが、ちょっとよろけてしまうナノハ。そしてこれを皮切りに、他3人もプレゼントをナノハに手渡し始めた。
何が何やらわからないナノハ。頭には沢山の?が付いている。
そんなナノハの前に立つ四人。
そして・・・
「遅くなりましたが、ご快復おめでとうございます!」
「えっ・・・」
「おめでと~!」
「おめでとう!」
「おめでとー!」
四人から送られる拍手。ナノハはやっと理解した。この人達は、自分の快気祝いをしてくれているのだ。
でもなんで?
当時は会ったこともないのに・・・それなのに・・・事件の話を聞いただけで?・・・姉を頼ってこういう場をわざわざ用意してくれたの?
正直訳がわからなかったが、でもこの場を包むこの優しい空気だけで十分だった。
ナノハの目からは自然と涙がこぼれる。
「あれ!?」
「もしかして迷惑だった?」
「ごめんな!」
「ワタクシとしたことが・・・申し訳ありませんでした。」
勝手に勘違いしながら謝る面々。
「謝らないでください!違うんです・・・皆さんの気持ちが嬉しくって・・・」
そこまで言うと、ナノハは声をあげて泣き出してしまった。
本当に・・・本当に嬉しかった。去年の夏休みは、一昨年の夏休みのこともあり、表面上は明るく過ごしたがやはりどこか暗い影があった。
このまま夏休みの度にそんな気持ちにならなくちゃいけないのかと、ナノハはそれは落ち込んだ。だからイサムにお願いして鍛えたりもしている。モヤモヤを振り払うために。
でも・・・
今日という日はそんな靄を払拭してくれるには十分の価値がある。
こんな優しい人達と知り合えて、気にかけてもらえて・・・本当に本当に嬉しい。
・・・・・・
どれくらい時間が過ぎただろう。ナノハは泣き続けていた。
「あ、あのさ、ナノハ。そろそろ泣き止もっか。」
マユリはナノハの背中を優しく擦り、何とか泣き止ませようとする。折角の感動的なシーンだが仕方がない。時間帯的に通行人が多くなってきたからだ。
この光景、見ようによっては女子高生複数人が女子小学生一人をいじめて泣かせているようにも見える。
びええーんと泣くナノハを泣き止まそうと必死なマユリとハルカ。後輩達は散り散りになり、『違うんですよ~』だとか『泣いてる子はあの方の妹なんですよ~』だとか、聞かれてもいない言い訳を通行人にし続けている。
こんな異様な光景もミカ達の優しさも含めて、今年の夏休み最終日はナノハにとって、ずっと忘れることができない、素敵な一日になったことだろう。
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