第78話 マユリVS熊
あと少し・・・
あと少し・・・
あの道の先には・・・
・・・・・・
「やっと到着だー!」
叫ぶハルカ。
山頂に到着したのだ。時刻は正午。
見晴らしのいい、大自然の展望台。人気もない為貸し切り状態だ。ここで食べるマユリ弁当は、さぞ四人の胃袋に染みることだろう。
早速一番いい景色の見えるところにシートを敷くと、3人で座り暫しこの達成感を堪能する。
程無くして・・・
「・・・お腹すきません?」
ミカは遠くを見ながらヨダレを足らす。
「そうだね。お腹すいたね・・・」
ハルカもまた、空を見ながらヨダレを足らす。
「よし、じゃあお弁当食べよう。ちょっと待っててね。」
マユリは背負ってきたバック(?)からお弁当を取り出し、シートの上に並べた。
「どうぞ召し上がれ。いっぱい作りすぎちゃったから残してもいいよ。あっ、そうだ。言うの忘れてたけど、ミカちゃん、食材どうもありがとう。」
昨日のことを思い出し、ミカに感謝の言葉を述べるマユリ。
「いいんですいいんです。全てはこの為だったんですから。こちらこそありがとうございますぅ!」
ミカのヨダレは、もはや川になりつつあった。余程楽しみにしていたのだろう。ハルカも目をキラキラさせ、最初に口に運ぶおかずを吟味する。
「サクラさんも、どうぞ召し上がって下さい。」
言われて直ぐ様、サクラは海の時と同様、またしてもマユリの隣を陣取る。ミカのこめかみがピクリと動くが今はそれどころではない。早く召し上がりたいのだ。
『いっただっきま~す!』
マユリ以外の箸が一斉に飛び交う。我先にと料理を口に入れていく3人。その様子をまるで母親のようにニコニコしながらマユリは見ていた。
やっぱり自分の作った料理を食べてもらえるのは嬉しいな。
本当に女神のような子だ。何度も言うように、マユリはいいお嫁さんになること間違いない。
・・・
30分程経った頃だろうか。少しお腹が膨れたミカは一時戦線を離脱し、立ち上がった。
それにしても・・・何ていい風景だろう。ここでは普段は味わえない様な、雑じり気の無い、新鮮な空気を吸うことが出来る。まるで心が洗われるようだ。
そう思いながらぐるりと辺りを見渡したミカは、茂みの奥に何かを見つける。そして、顔を真っ青にさせた。
「せ、先輩方!熊です!熊出ました。」
慌ててマユリに飛び付くミカ。
あっ、柔らかい🖤
この状況においても、このノリを忘れないのはさすがだ。それにしても・・・
ハルカが威嚇を解いたと思ったらこれだ。おそらくこの近くに縄張りを持っているのだろう。熊は自分の領域に足を踏み入れた人間達にひどくご立腹のようだ。
「あ~、あたしはパス。帰りの体力回復させたいから。マユリお願い。」
面倒くさそうに言うハルカ。やろうと思えば簡単に何とか出来る様な言い方だが、まさにその通りだった。しかし疲れているのは事実。ここはマユリに任せることにした。
「わかったよ・・・無駄な殺生はしたくないんだけどな。」
仕方なく、熊を殺る気でいるマユリ。手加減はするつもりだが、本能で攻撃してくる殺傷能力の高い相手をねじ伏せる為には、最悪命を奪うつもりでやらなければいけないのだ。
マユリは落ちている小石を拾い、熊目掛けて親指で弾こうとした。脳天を貫くつもりなのだ。だがその直前、草むらの先に何やらの気配を感じとったマユリ。
・・・小熊だ。
小熊が心配そうにこちらを見ている。マユリは思い止まった。
なるほど、そういうことか・・・
マユリの力を、熊の本能で察知できないはずがなかった。つまり、この熊は身を呈して子供を守るために牙を剥いてきたのだ。
そんな親熊を殺める訳にはいかない。
躊躇するマユリだが、熊はやる気だ。
「ちょっと待ちなさい!」
言葉が通じないのはわかっている。だが、それでも熊を制しようとするマユリ。親熊に何かあっては小熊が可哀想だ。
「ボク達、お弁当食べたらすぐに帰るから、少し待ってて!」
必死の説得だが、もちろん熊には通じない。
突進してくる熊。マユリは仕方なく構えをとる。なるべく深い傷を負わせないように追い払うしかない。
拳を軽く握り、熊の到達を待つ。そして間合いに入った。
「マユリ先輩!!」
見ていたミカは声をあげる。愛しい人が傷つけられてしまうかもしれないからだ。だがそんな心配は1mmもなかった。マユリは攻撃が届く前に、身を屈めて熊の腹部に拳を当てた。
そして・・・
ドン!!
動きが止まる熊。そしてそのまま前のめりに倒れていく。通常なら、ボディーブロー一発で熊の硬い防御を打ち破ることは出来ないだろう。それに例えダメージを与えられたとしても反撃してくるはず。しかし今のこの状況。とても信じられないことが起こっている。
「な・・・あ・・・い・・・今のは裏当て?それも・・・この威力・・・」
サクラはとんでもないものを見たと、口をパクパクさせている。
ハルカにとってはマユリが勝つのは当たり前のこと。なので未だ料理に舌鼓を打っている。一方ミカは、不安と緊張から解放され泣き出しそうになっていた。まあこちらの方が当たり前の反応だろう。
手加減はした。
後数時間で起き上がれるはず。
マユリは熊を見ながらため息をつく。そして小熊の方へ目を向けた。
「大丈夫だよ。君の親は生きてるから。」
怯える様子は変わらないが、それでも何となく意味がわかったのか小熊は親熊にトコトコと歩み寄ってくる。
「ごめんね。ボク達のせいで・・・お詫びに少し食べ物置いていくから、もう人を襲わないでね。」
マユリは小熊に優しい目を向け、そう告げた。
そういうことだったのね。
ハルカは横目でその様子を見ていた。マユリなら敢えて接近戦を選ばなくも、先程の小石で遠距離から眉間を貫くことだって出来たのだ。それをしなかったのは、やはりマユリの本質『優しさ』があったからだろう。
マユリ先輩・・・優しい・・・
ミカは惚れ直した。マユリは、自分が襲いかかられているのにも関わらず、親熊の『子供を守らなければ』という深い愛情をしっかり考えて行動していたのだ。もう早く結婚したい。
マユリ様・・・
尊敬の眼差しを向けるサクラ。今まで、数多くの武芸者見てきた。しかし、やはりマユリは別格だ。以前、『熊殺しのサリア』(誰?)と闘ったことがあるが、彼女でさえ何とか熊を倒すことが出来る程度だった。だがマユリは、熊相手でも明らかに手加減をしている。彼女の力は、未だ底が見えない。
何にせよ四人は早々に弁当を平らげ、下山することにした。親熊が目を覚ましたら、また闘わらざるを得ないからだ。
身支度を整えいざ山を降りようとしたその時、ヘリコプターが近づいてくる音が聞こえてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます