第77話 過酷な山登り(特にハルカ)
快晴の朝9時。
人の立ち入らないような鬱蒼とした木々や雑草の生い茂る山の細道を、掻き分けるように進む3つの人影。
山登りに適した格好をしたマユリ、ハルカ、ミカは一時間前から歩いていた。砂利や木の枝が足元を不安定にさせるため、ゆっくり進まなければいけない。だが、それほど高い山では無いため、このペースでもお昼前には山頂に着くだろう。
「ねぇ、ちょっと休憩しない?」
ハルカは疲れた顔で言った。まだ歩き始めて500m程。マユリやミカはまだまだ余裕なのだが・・・
「そうだね。少し休もうか。」
「はい、ハルカ先輩大変ですもんね。じゃあそこの日陰で水分補給しましょう。」
マユリはすぐに賛成する。ミカもハルカの身体を労う。
何故ハルカだけそんなに疲れているのだろう。どちらかと言えば、食品配達屋さんのような大荷物を背負ったマユリの方が疲れていてもよさそうなのだが・・・
「はいハルカ。ボクの作ったスムージー飲んで。」
「わぁ、ありがとう。これを楽しみにしてたんだ!」
切り株に座り、ハルカは嬉しそうにマユリスムージーを飲み干した。
「はぁ・・・これでまた頑張れる。」
リラックスした様子でまったりくつろぐハルカだったのだが・・・
「あぅ!」
ミカが声をあげる。マユリは慌てて駆け寄った。
「どうしたの?ミカちゃん!」
「うう・・・蚊に刺されましいたぁ(涙)」
見るとミカのか細い二の腕に、赤く小さな腫れがある。
「ごめんごめん。ちょっと待ってね。」
深呼吸をし、ゆっくり目を閉じるハルカ。そして、クワッと一気に開く。
ザワワワワ・・・
騒がしくなる辺りの木々達。
ハルカは広範囲の『威嚇』を使ったのだ。そしてそれを持続させたままにする。
「ふぅ、じゃあ行こっか。」
ハルカは立ち上がり、歩を進める。
ハルカの疲労の原因。それは休憩中以外、常に威嚇を発動させているからだ。三人だけではなく、少し離れたところにいるサクラにまで届くような広範囲威嚇。しかも、この四人には影響が及ばないように力のコントロールまでしている。
今やハルカの威嚇は、フユリの力にまで最接近しようとしていた。
「ハルカ。疲れたら言ってね。今度はボクが何とか対処するから。」
マユリは申し訳ない気持ちになる。少しでもハルカの力になりたいのだ。だが、ハルカは首を振る。
「大丈夫だよ。マユリは気にしないで山登り楽しんで。」
「でも・・・」
ハルカの気遣いに、マユリは沈んだ顔をしてしまう。でも違うのだ。本当にハルカは気にしないでもらいたいのだ。何故なら・・・
「あたしはね、敢えて疲れたいの。だって、疲れた後のスムージーは絶品だからさ。それが楽しみなの。」
嬉しいことを言ってくれるハルカ。マユリは照れ笑いしてしまった。
「そ、そうなんだ。えへへ、いっぱい持ってきてよかった。もう・・・ハルカ大好き。」
告られた。
もちろん友達として好きと言っていることはわかっているハルカ。しかし、それを真に受けたミカはショックで目を見開いていた。
「ママママユリ先輩・・・ハハハハルカ先輩のこと・・・」
パニックになり口がうまく回らないミカ。その様子にハルカは呆れた顔で言った。
「ミカちゃん、あたしとマユリの仲だよ?どういう意味の好きかわかるでしょ。」
その一言で、ミカはハッと我に帰る。そうだ。この二人の関係は親友同士。それ以上ではないのだ。きっと常日頃からこういう冗談を言い合っているに違いない。でも・・・
それでもちょっと悔しいです・・・
ミカは心の中で呟いた。
・・・・・・
30分程歩いた頃、少し拓けた場所に辿り着く3人の美少女達。
「山頂まで残り半分位ですし、ここで休憩しましょ。サクラさん、何か敷物ありますか?」
呼ばれと飛び出て姿を現すサクラ。手にはビニールシートを持っている。
「どうぞお使いください。では・・・」
渡すものだけ渡したら、サクラはすぐに姿を消した。どこに隠れているのだろう。
「ささ、ハルカ先輩お座りください。」
ミカはハルカを、足元に気をつけてもらいながら敷いたシートまで誘導し、その上に座らせる。わかっているのだ。ハルカがどれほど重要な存在かを。おそらくハルカがいなければ、もっと困難な山登りになっていることだろう。しかし、ハルカの威嚇のお陰で害敵は一切寄ってこない。危惧していた虫刺されも皆無なのだ。とても便利な能力。いや、とても恐ろしい力だ。
「はい、ハルカ。これ飲んで。」
マユリはハルカご所望のスムージーをコップに入れて手渡す。
「これこれ!・・・プハーッ!これの為に頑張ってるんだな!」
一気にコップを空にするハルカ。そんなに美味しいのか・・・
遠慮していたが、ミカもマユリスムージーが飲みたくて堪らなくなった。
「マユリ先輩。その・・・ハルカ先輩のだってわかってはいるんですが・・・あの・・・ちょっとだけでいいんでそのスムージー飲ませてくれませんか?」
モジモジしながら、そっとマユリに聞くミカ。とても可愛らしい。
「ん?いいよ。ねっ、ハルカ。」
マユリはハルカに確認をとる。
「もちろんいいよ。別に独り占めする気ないし。飲みなよ。きっとハマるから。」
ハルカもミカにこの味を知ってもらいたいと思っていた。そしてこの感動を共有したいのだ。
マユリは別のコップにスムージーを注ぐと、ミカに渡した。
「では、頂きます。」
ゆっくり、そして、確実にミカの口の中に広がっていくマユリスムージー。そしてそのまま一気に飲み干してしまった。
「美味しい・・・美味しいです!この為なら頑張れるっていうハルカ先輩の気持ち、スッゴくわかります!」
ミカは舌を出し、コップの縁を舐め回す。ちょっと下品だが、それだけマユリスムージーが絶品だったということだ。
「ね、美味しいでしょ。マユリ、おかわり頂戴。」
「オッケー。」
マユリは再びハルカのコップにスムージーを注ぐ。その様子をミカは指を咥えて見ていた。
あたしも、もっと役に立てばもっと飲めるかな。
いや、普通にもらえばいいだけなのだが、何故かハードルを上げてしまうミカ。正直、ミカは今まで十分なことをしてくれている。もっと甘えてもいいと思うのだが・・・
「よし、行こう!」
スムージーのおかわりを飲んだハルカは立ち上がり、二人を促す。
威嚇の効果は凄まじいのだが、やってる本人としてはかなり過酷なものだった。確実に体力と気力をすり減らしているのだ。快適に歩く3人とは対照的に、ハルカの精神は悲鳴をあげていた。だからこそ、休憩の時は安らぎが欲しいのだ。
だが、今は幸いなことに条件が揃っている。
大親友とかわいい後輩、そして影で見守ってくれている年上のお姉さんがいるこの状況がそうだ。とても安心できる。で、そこで飲む絶品のマユリスムージー。例えここがどんな場所であろうと、ハルカにとってそこが安らぎの場所になるのだ。一時的に疲れなど吹き飛んでしまう。
山頂まであと少し。頑張れ!ハルカ!
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