第46話 びしょびしょマユリ

 雨の火曜日、放課後。


 どしゃ降りの雨の中を、マユリは走っていた。ミカを家まで送り、ハルカと別れた後の出来事。

 しかし、何で傘も差さずにこんな状況の中にいるのか。それは、急な突風で傘が壊れてしまったからだ。家まで後100m程。もっと飛ばしたいのだが、水溜まりがそこかしこにある上に革靴は靴底が滑るので強く踏み込めない。本来のマユリなら、一瞬で家につくことが出来るのだろうが、このときばかりは10秒もかかってしまった。

 自宅の玄関にたどり着いたマユリは手早く鍵を開け、中に入る。

「はぁ、やっと着いた。」

 びしょ濡れのマユリ。早くシャワーを浴びて、着替えたい。

「制服乾くかな。・・・うわぁ下着までびしょびしょだ。」

 マユリはスカートの裾を上げ、太ももを伝う雫を見つめながら言った。

 そこに、このタイミングで弟イサムがマユリに駆け寄ってきた。

「姉ちゃん、大丈夫か?・・・!」

 イサムは咄嗟にマユリから目を逸らす。いや、厳密に言うとマユリの下半身からだ。

 マユリはスカートの裾を上げたままにしているため、未だ下着が丸見えだったのだ。しかし、それだけならまだよかった。問題は、その下着から滴る雫がとんでもなく卑猥に見えてしまっているということだ。

 実の姉に欲情してしまう訳にはいかない。イサムは必死に堪えた。もちろんマユリはわざとやっているわけではない。悪気はないのだ。

「イサム~。悪いんだけどタオル持ってきてくれない?このままじゃ上がれないから。」

 マユリはイサムにお願いする。

 そうだ!このままでは大好きな姉が風邪を引いてしまう。

 我に帰ったイサムは、急いでタオルを取りに行く。そしてすぐに戻ってきた。

「ほら、持ってきたぞ!」

 しかしマユリは受け取らず、更に指示を出した。

「ごめん。ボクこうしてるから、それでボクの足拭いてくれない?」

 ななっ!!

「じ、自分でやれよ!何で俺がそんなこと。」

「おねが~い🖤」

 うっ・・・

 姉という存在以前に、こんな美しい女性にこんな顔されたら・・・断ることが出来なかったイサム。仕方なく拭き始める。

膝、ふくらはぎ、足首。なるべくじっと見ないように丁寧に拭いていく。

「ねえ、できればもっと上の方拭いてもらいたいんだけど。下着が雨水いっぱい吸っちゃってるから・・・」

 恥ずかしげもなく言うマユリ。イサムの気持ちなどちっともわかっていなかった。

 イサムは上を見上げる。

 するとそこには・・・姉の・・・マユリの足の付け根が目の前にあった。顔を真っ赤にし、目を回すイサム。


 ダメだダメだダメだダメだ!目を閉じろ!無心になれ!そうすれば・・・大丈夫だ。


 イサムは目を閉じ、マユリの太ももを拭き始める。柔らかな感触がタオルの上からでも手を伝う。そして、もっと触っていたいという欲求に駆られながらも、手は更に上に向かっていく。

「ちょっと・・・イサム?そこは・・・あんまりゴシゴシしなくて・・・んっ・・・いいよ?」

 ハッ!!

 イサムは慌てて手を止め、その場から少し離れる。一体マユリのどこを拭いていたのか。イサムは無心になりすぎていてよくわからなかった。

「あ、ありがと。助かったよ。じゃあボクお風呂場に行くね。そうだ。ボクの部屋から着替え持ってきてくれない?この状態じゃ、あんまり家の中歩き回れないから。」

 マユリはつま先立ちで風呂場に向かう。

「ああ、わかった・・・」

 イサムは言われるがまま、呆然としながらマユリの部屋に行き、着替えを用意すると、脱衣場に持っていった。風呂場の中からは、マユリがシャワーを浴びている音が聞こえてくる。もう欲情の箍が外れそうなイサムは、とりあえず着替えを置き、その場から退散した。


 20分後


 マユリは浴室を出る。そして身体を拭こうと、洗濯乾燥機の隣にある三段棚の二段目にある籠を見たのだが・・・バスタオルがない!

「ちょっ、ちょっと~イサム~!バスタオルがな~い!」

 暫しの沈黙。どうやらマユリの声は、イサムに届いていないようだ。それもそのはず。イサムは自室に籠り、先程マユリを拭いたタオルと向き合っていたのだ。


 ううっ、どうしよう。


 マユリは困ってしまった。すると・・・

「お姉ちゃん?どうしたの?」

 妹が来てくれた。


 助かったぁ~


 マユリは妹にバスタオルがないことを伝え、用意してもらおうとした。しかし、妹は難しい顔をする。

「タオル類は今、お母さんがコインランドリーで乾かすって持ってっちゃってるんだ。この洗濯乾燥機だけじゃ間に合わないから。ほら、ここんとこずっと雨だったでしょ?仕方ないよね。」

 淡々と言う妹。まるで諦めろと言わんばかりだ。

「ねぇ、何か拭くものない?このままじゃ風邪引いちゃうよ。」

 もうここは妹に頼るしかない。マユリは懇願した。

「ん~・・・!あっ、わかった。ちょっと待ってて。」

 妹は脱衣場を飛び出し、自室に行くとあるものをもってすぐ戻ってくる。

「はい、これ。プールの授業で使う予定だった、あたしのラップタオル。貸して上げるよ。」

 妹が持ってきたラップタオルにはかわいい猫ちゃんのキャラクターがデザインされていた。これは確かお気に入りだったはず。それなのにそれを、姉の緊急事態のためにならと貸してくれたのだ。なんて優しい子だろう。さすがマユリの妹だ。

「ナノハ~。ありがとぉ~。」

 マユリは妹を抱き締める。ほんとしっかりした子だ。この子が妹でよかったと、マユリは心から思った。

「ちょっとお姉ちゃん!せめて身体を拭いてからにしてくれない?あたしまでびしょびしょになっちゃうよ!」

 裸の、しかもびしょ濡れの姉に抱き締められ、妹はとても迷惑そうだった。しかし、心から嫌というわけではない。何故ならナノハも、イサム同様マユリのことが大好きだったからだ。


 その後、マユリは無事着替えることができ、ほっと息つく。そして妹は、着替えたくもないのに着替える羽目になったとさ・・・

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