第45話 ミカ、誕生日の計画

 6月の下旬。


 ジメジメした時期がやって来た。

「ああ、今日も雨か・・・」

 教室の窓から梅雨空を見上げ、溜め息をつくマユリ。


 放課後


「マユリ~。帰ろ。」

 ハルカがバッグを持ってマユリを迎えにきた。といっても一番最前列の席から一番後ろの席に来ただけだが。

「うん、行こっか。」

 マユリとハルカは足並み揃えて下駄箱に向かう。そこには見知った顔の美少女が二人を待っていた。

「先輩方、待ってましたよ。一緒に帰りましょ。」

 ミカはすでにローファーに履き替え、昇降口に立っている。あの勉強会以降、3人で下校するのが当たり前になっていた。それだけ絆が深まったということだ。

 二人も靴を履き替え、ミカの側に行く。

「じゃっ行こう。」

 それぞれが傘を差し、昇降口から雨の降りしきる外に繰り出す。

 校門を出て暫くすると、ミカがぼそりと呟いた。

「あたし、今度の日曜日誕生日なんですよ。」

 あからさまに何かを期待しているのがわかる言い方。当然マユリとハルカは何も答えないわけがない。

「おめでとう!そっか、ミカちゃん16歳になるんだね。年齢的にはボクと同じ年だ。」

「そうなんですぅ。マユリ先輩は確か12月ですよね。誕生日。その時は是非お祝いさせて下さい!」

 マユリの基本的な情報は熟知しているミカ。しかし・・・

「あたしの誕生日、1か月前だったのは知ってる?」

 少し寂しそうに言うハルカ。もちろんマユリには祝ってもらったのだが、ミカにもおめでとうくらいは言ってもらいたかった。

「す、すみませんでした!あたし、まだまだハルカ先輩のこと知らないみたいですね。ハハハハハ・・・」

 罰が悪そうにミカは笑ってごまかす。そして、何かを思い付いた。

「そうだ!ハルカ先輩、今度の日曜日あたしの家で合同誕生日会やりません?もちろんマユリ先輩も参加で!」

 マユリを自然と誘う口実ができたのだ。ハルカに感謝である。

「そ、そう?ありがとう。是非参加させてもらうわ。・・・マユリは?」

 ハルカは一応マユリに聞いてみる。何故なら、誕生日当日にハルカの家でマユリにはもうお祝いしてもらっていたからだ。

「是非参加させてもらうよ。だって、親友とかわいい後輩の誕生日会だもん。楽しみだな。」

 本当に心優しいマユリ。できるのであれば何度でもお祝いしてあげたいのだ。

「じゃあ決定ということでいいですね!」

『うん!』

 揃えて頷くマユリとハルカ。

 ミカは心の中で、ニヤリといやらしく笑った。ミカにはがあったのだ。


 フッフッフッ・・・楽しみだな。


 傘で隠れて見えないが、今のミカの顔は悪人そのものだった。

「あっ、プレゼントとかはいいですからね。その代わりちょっとしてもらいたいことがありますんで・・・」

 ミカはマユリに気を使わせないように言ったつもりなのだが、マユリは胸を隠す動作をする。

「やらしいことするつもり?」

 疑いの目をミカに向ける。

「そ、そんなことするわけないじゃないですかぁ。やだなぁ。あはははは・・・」

 考えなかった訳でもなかったミカは、またしてもごまかし笑いをする。

「まあ違うんならいいけど。でも、やっぱり何もないのは寂しいから何か用意させてね。」

 マユリはお祝いの気持ちを形で表したいのだ。そう言われて、ミカには断る理由がない。

「ありがとうございます。でもハルカ先輩は本当にいいですよ。あたしと同じお祝いされる側なんですから。」

「いや、あたしも用意するよ。そうだ!ミカちゃん、プレゼント交換しよ。」

 ナイスアイディアと言わんばかりのハルカ。まあミカもまんざらではない様子だ。

「そうですね。そうしましょう。いや~楽しみですね!」

 3人とも、上機嫌で夕日の照らす歩道を歩く。いつの間にか雨も止んでいたようだ。

 ミカは帰ってから忙しくなるだろう。計画を練らなければならないからだ。色々と準備するものもある。


 クックックッ・・・早く日曜日にならないかな・・・


 一体ミカは、マユリに何をさせるつもりなのだろう。自分の欲望を満たすためだけに考えた計画。

 だが当日、それは意外にもマユリとハルカに高評価を得ることになるのだった。

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