第37話 勉強会中止?

「・・・では教科を変えましょう。次は数学を教えたいと思います。」

 先生の指示で、生徒達は揃ってノートを広げる。どうやらサキは教科書も見ずに問題を出すようだ。


 よし!数学だ!少しでも身に付くように頑張るぞ!


 気合いを入れるマユリ。しかし期待とは裏腹に、またしても裏切られることになるのだった。

 部屋をうろうろとし出しながら問題を出すサキ。

「フライドポテトが20本あります。その内の5本をマユリさんが食べました。」


 !?何でボクが出てくるの?


「でも味が合わなかったのか、3本を食べかけで残してしまいました。・・・どうしますか?」

 どうしますか?いや、問題の意味がわからないのだが・・・確か数学だよね?

「あたしが食べます!」

 !

 即答するミカ。

「いや、オレが食べる!」

 !!

 ヒメノも負けじと続く。

「・・・先生が食べます!」

 !!?

 出題した先生も入ってくるんですか?


 何言ってんの?何言ってんの?


 オロオロするマユリ。ハルカはやれやれと頭を抱えている。この3人、全然反省してない。

「じゃあ3本あるし、1本づつ食べましょう。」

 分けあうことを提案するサキ。いや、実物があるわけではないのだが・・・ほんと何言ってんの?

「そうですね。致し方ないですね。」

 ミカは納得いかないといった顔をしているが、仕方なくその提案に乗った。

「オレも我慢します。」

 ヒメノもまた唇を噛み、悔しそうな表情を見せる。そんな二人の様子を見て、サキはある提案をした。

「でも1本づつじゃ足りないわね。・・・ではこうしましょう。残りもマユリさんに食べ掛けで残してもらって、みんなで分けましょう。」

 とんでもないことを言い出してきた。マユリの気持ちなど少しも考えていない発言だ。

「凄い!よく思い付きましたね。最高の案です。」

 食い付くミカ。マユリより、自分の欲望を優先させている。 

「やった!じゃあ1人6本づつ食べられるんですね。」

 ヒメノもまた、マユリを思う気持ちより、喜びの方が勝ってしまっていた。

 盛り上がる3人。


 こ、こいつらぁ!


 よくもまあ妄想だけでマユリを弄ってくれたものだ。


 もう黙っていられない!


 ハルカはバンッと机を叩きながら勢いよく立ち上がる。

「いい加減にしてください!まともな授業を希望します!ねっ、マユリ。」

 言いながら隣に座るマユリの顔を見て、ハルカは言葉を失う。マユリは・・・泣いていた。

「ううっ、なんでみんなでボクをいじめるの?ボクのこと・・・嫌いなの?」

 声が震えている。余程悲しいのだろう。大好きな先生やかわいい後輩たちがよってたかってマユリを弄っているのだ。信頼関係は最早、崩れ落ちる寸前だ。


 『あわわわわ!』


 全身から汗をかき始めるサキ達。そりゃあ流石に焦るだろう。想いを寄せている愛しい人を、自分達が泣かせてしまったのだから。

「ボク、帰るね・・・」

 席を立つマユリ。


 !!!


 最悪の事態だ。何とか引き留めないと!

「ちょっ、ちょっと待ってください!きっ、嫌いなんて、そんなわけないじゃないですか。愛してますよ。」

 愛の告白をさらりとするミカ。

「オレも、だ、大好きです。」

 どさくさに紛れ、想いを伝えるヒメノ。

「マユリさんのこと嫌いになる人類なんているわけないわ。」

 人類基準で言い出すサキ。

 それぞれが焦りと後悔の表情を作りながら、何とかマユリを引き止めようと必死に言葉をかける。

 各々の顔を見て、嘘で言っているわけではないと感じたマユリは、再び椅子に腰を落とし深呼吸した。

 そして・・・

「・・・本当?」

 口元に軽く閉じた手を当て、モジモジと聞くマユリ。頬はピンク色に染まり、涙で潤んだ瞳で上目遣いをしている。その様子はまさに『守ってあげたい乙女』そのものだった。


 ズキューーン!


 マユリのそのあまりの可愛さに、3人ともハートをやられてしまった。

 そして同時に訪れる後悔。自分達はなんてことをしてしまったんだろう。

『本当です!』

 声が揃う3人。

 もう愛しい人を泣かせたりしない。3人は決意の表情を露にする。

「じゃあ証明してください。」

 ハルカは意地悪そうな顔で3人に言った。散々親友のマユリを弄んだのだ。それ相応の罰を受けてもらわねば。

「・・・何をすればいいの?マユリさんの為なら何でもするわ。」

 意を決した顔をしているサキ。ちゃんと罰を受ける覚悟はあるようだ。

「そうですね・・・」

 ハルカは考える。マユリが喜びそうなことを・・・


 ・・・そうだ。


「マユリの好きなところ、それぞれ3つづつ答えてください。あっ、カブッちゃだめですよ。」

 かなり簡単なお題だ。しかしそれでもいい。マユリが気分よくなってくれるのであれば。

「じゃあミカちゃんから。」

「はい。マユリ先輩の好きなところは、とっても優しいところです。かわいいところです。料理が上手なところです。」

「えへへっ。料理が上手って、そんなことないよぉ~🖤」

「次、ヒメノちゃん。」

「マユリさんは強いです。かっこいいです。服のセンスがいいです。大好きです!」

「ボクはただ動きやすい服着てるだけだよぉ🖤やだなぁ、照れるなぁ🖤」

「最後はサキ先生。」

「そうねぇ。3つじゃ足りないくらいだけど・・・マユリさんのスタイルがいいところが好きよ。後輩思いのところも、ボーイッシュな見た目とは違ってちゃんと女の子らしい内面を持つところも好き。なんといっても性格がいいところが一番好き🖤あっ、4つ言っちゃった。」

「もぉ~🖤そんなに誉めてもなにもでないですよ?」

 3人の誉め言葉でデレデレ顔のマユリ。効果テキメン。もう帰りたいとは思っていないだろう。

「ああ、今日はいい日だなぁ🖤よし、勉強頑張るぞ!」

 右拳を高々と上げ、マユリはやる気を取り戻した。


 やった!完璧に機嫌がなおった!


 ハイタッチで喜び合う3人。ハルカはやれやれとといった顔でその様子を見ていた。まあとりあえず勉強会が中止にならずに済んでよかったよかった。


 ちなみに、しれっとそれぞれが告白していたのだが、そこには気付かずさらっと流してしまうマユリ。

 

 今度こそ本当に心を入れ替えたサキは、全力をつくし、解りやすくかつ丁寧に、ちゃんと勉強を教えるのであった。

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