第35話 着せ替え人形?

 ティーカップに口をつけ、紅茶をすするマユリ。なんとも優雅な時間。お茶菓子のクッキーも美味しい。これから女子達のおしゃべりタイムが始まるのだ。

「ハルカ先輩。さっきの話ですけど、その服どこで買ったんですか?」

 身を乗りだし、興味津々で聞くミカ。やはりミカも女の子。ファッションにはすぐ目がいくのだ。

「ああ、これね。実はこれ、手作りなんだ。こう見えてもあたし、裁縫は得意だからね。」

 ハルカは手先が器用だった。好きな服は自分で作ればいい。それが信条だ。

「そうだよね。ボクもハルカにこのスカート作ってもらったからね。」

 そう、今日は珍しくスカート姿のマユリ。赤と黒のチェック柄がとてもかわいい。

「いいなぁ。あたしにも作ってくれません?お金は言い値で払いますから。」

 ちょっと鼻につく言い方だが、そこは気にしないでおこう。マユリも作ってもらったとあっては、どうしても欲しくなってしまったのだ。

「いや、材料さえ用意してくれればお金はいいよ。作って上げる。これと同じのがいい?それともマユリのはいてるスカートがいい?」

 後輩思いのハルカ。ミカのお願いを聞いてあげることにした。

「ん~同じのもいいですけど、あたしヒラヒラのかわいいスカートがいいです。」

 ミカらしい注文だ。ハルカはふとミカの隣に目を向ける。そこには物欲しそうに指を咥えているヒメノがいた。


 ・・・欲しいのかな?


「ヒメノちゃんもどう?何か欲しい服があれば、作れる範疇で作って上げるよ。」

 空気を読んで声をかけるハルカ。ヒメノは白々しく、少し考える様子を見せる。

「じゃあオレは黒のワンピースがいいです。」

 照れ臭そうにボソッと言った。

「へぇ~。意外だね。ヒメノちゃんが女の子らしい服欲しがるなんて。」

 ハルカはついついからかい口調になってしまう。いつも男勝りで斜に構えているヒメノが、目の前で女の子らしい顔をしているからだ。

「い、いいじゃないですか。オレだって女ですよ。か、かわいい服着たいって欲求くらいありますよ。」

 更に顔を赤らめ、恥ずかしそうなヒメノ。そんなヒメノを見て、ミカはある提案をする。

「じゃあさ、ハルカ先輩に作ってもらう前にあたしの持ってるやつ着てみてよ。」

 ギョッするヒメノ。全然心の準備ができていない。

「ここで?」

「そっ、ここで。」

「ん~、でもなぁ・・・」

 中々煮え切らないヒメノに、ミカはそっと耳打ちをする。

「もしかしたらマユリ先輩に誉めてもらえるかもよ?」

 それを聞いたヒメノは目を見開く。確かに、もしかしたら・・・

「・・・わかった。着てみる。」

 ヒメノとミカは一斉に立ち上がると、部屋の一角にあるウォークインクローゼットに姿を消した。


 3分後


「じゃじゃ~ん。」

 クローゼットの扉が開き、ミカはヒメノを引き連れ出てきた。

「ど、どうですか?マユリさん・・・」

 ピンクのワンピースに身を包んだヒメノは、モジモジしながらマユリに聞いた。

「うわぁ・・・」

 マユリは思わず声を漏らす。


 ううっ・・・すごく驚いた顔してる。やっぱり似合ってないのかな・・・


 沈黙がヒメノを不安にさせる。しかし、マユリの一言でそれは払拭された。

「スッゴクキレイ・・・モデルさんみたいだよ、ヒメノちゃん。」

 感動したように真顔で言うマユリ。それを聞いたヒメノは、顔をパッと明るくした。


 やった!誉めてもらえた!


 気を良くし、その場でクルクルと回りだしたヒメノ。だが、それをしてしまうと・・・

「あっ。」

 ワンピースの裾が舞った時、ヒメノのヒメノが見えてしまったのだ。だがまあ、そんなことは今はどうでもいい。ヒメノはニコニコ笑顔でミカを見る。

「今度は違うの着てみようかな。ミカ、選んでくんない?」

 好きな人に誉めてもらったことで、自信がついたようだ。ミカも乗り気で、再びウォークインクローゼットに入っていく。


 3分後


 まるでお姫様のようなドレスを着たヒメノが出てきた。これだけの装飾をよくまあこの短時間で着れたものだ。

「どうですか?少し恥ずかしいですが、似合ってますか?」

「わぁ!それもいいね。かわいい!」

 マユリはまたしても大絶賛する。本当にどこぞのプリンセスかと思うくらい似合っていた。


 3分後


「こ、これは・・・どうですか?」

 ナース姿のヒメノ。何故そんなものをミカが持っているのかはあまり詮索せず、まじまじと眺めるマユリとハルカ。ミカのサイズなだけに、長身のヒメノが着ると少し窮屈に感じられる。しかし、半分以上露になっている太ももからは、大人の色気が感じられた。

「似合ってるよ!ヒメノちゃんが看護師さんだったらきっとモテモテだろうね。」

 確かに・・・だがこんな色々と際どい看護師姿では、病院ではなく如何わしい店の方にいそうだ。


 3分後


「これは・・・」

 次はキャビンアテンダント。これもまたスタイルのいいヒメノが着ると、なんの違和感もなく美しい。

「できる女って感じですごくいいよ。かっこいい!」

 キラキラした目でヒメノを見るマユリとハルカ。楽しんでいるようだ。

「はい、次いってみよう。」

 当たり前のようにヒメノを率いてクローゼットに入っていくミカ。いつしか始まったヒメノのファッションショー。他校の制服、アニメのキャラ、メイド服、レースクィーン、宇宙服。多種多様なラインナップだが、そのどれもを着こなすヒメノ。中には細い紐だけというのもあったが、さすがにそれは裸と同じなので却下された。

 何のためにミカはこれだけのコスプレを用意していたのか。それはマユリと・・・いや、そこはご想像にお任せします。

「はい、次々~。」

 言いながらウォークインクローゼットに戻ろうとするミカ。

「まだやるの?」

 ノリノリだったヒメノもさすがにうんざりした様子になっていた。ちなみに今のヒメノの格好は、長いリボンで股間と胸を隠しているだけの姿だ。

 いつの間にかミカの着せ替え人形になってしまっていたヒメノ。しかし、マユリとハルカがこれだけ喜んでいるのに、今更やめるわけにはいかない。3人が納得いくまで続けるしかないのだ。

 もう昼食の時間になっているのだが、そんなことも忘れて、夢中になってしまっていたマユリ達であった。

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