第34話 お願いだから邪魔しないでね
「いや~、この辺ジョギングしてたら偶然先輩達にあったもんだから。そしたらミカの家に行くって言うじゃない?だからついついノリで来ちゃったんだよ。てへっ。」
自分の頭をグーでコツンと叩き、舌を出すヒメノ。
「てへっじゃないわよ!今日は勉強会なんだよ!ヒメッち勉強道具持ってきてないじゃない。」
ミカが怒るのも当然だ。今日はマユリの為に、勉強だけはしっかりとするつもりだったのだ。なのにヒメノは短パンにTシャツ姿。手荷物など一切持っていない。どう考えても場違いな格好だ。
「わかってれば持ってきたけど・・・いいじゃん。オレ邪魔にならないようにしてるからさ。」
よくない!マユリに来てもらうために仕方なく誘ったハルカだけならまだしも、これ以上ライバルを増やすつもりなどミカには毛頭なかったのだ。
しかし無情にも勉強を始める時間がきてしまった。
「ミカちゃん。ヒメノちゃんのことはその辺にして、とりあえず勉強始めようか。」
ミカを呼ぶハルカ。もうすでにマユリとハルカは机に座り、教科書や参考書を広げていた。ミカも慌てて勉強道具を用意し、着席する。
「それでは、勉強会を始めたいと思います。宜しくお願いします。」
『お願いします。』
ミカの掛け声と共に始まった勉強会。カリカリとノートをとる音だけが部屋の中に響いている。そんな様子の3人と、暇をもて余すヒメノ。とりあえず、部屋の端の方でストレッチでもすることにした。
絨毯の上に座り、足を180°に広げ、前屈をし始める。ミカは勉強しながらもヒメノの様子を監視していた。どうやら大人しくしているようだ。しかしホッとしたのも束の間、ミカはあることに気付く。
あれ?もしかしてヒメッち、下着はいてないの?
そう、ミカの斜め前で足を広げているヒメノの、短パンの隙間から見えたのは下着ではなく地肌だったのだ。
「ちょっとヒメッち!ノーパンなの?」
突然の大声に、皆がミカに注目する。そして、マユリとハルカはヒメノの下半身に目を向けた。確かに、下着ははいていないようだ。マユリの角度からはもろに見えている。
「まあ、はいてないけど。いいだろ別に。短パンはいてるんだからさ。」
恥ずかしげもなく言うヒメノ。しかし、マユリの一言で考えを改めることになる。
「ヒメノちゃん。女の子なんだからもっと注意しないと駄目だよ。ボク達女の子同士だからいいけど、男に見られて変な想像されたら気持ち悪いでしょ。」
・・・確かに。あれ?って言うことは今、マユリさんにオレの股間見られてる?あわわわわっ・・・
急いで足を閉じるヒメノ。ただの同姓に見られているのならまだしも、好きな人に自分のイケナイ部分を見られるのは話が別だ。さすがに恥ずかしい。
「はい。以後気をつけます・・・」
どうやらわかってくれたようだ。マユリは安心した。さて・・・
「じゃあ気を取り直して始めよう。」
再び勉強を続ける3人。またしても暇になるヒメノ。本棚にあった漫画を取り出し、読み始める。
5分後、何故か興奮した様子のヒメノは、部屋の片隅で立ちながら鼻息を荒くしていた。どうやらバトルものの漫画を見ているらしい。男っぽい口調と性格のヒメノ。友情・努力・勝利がメインの漫画が大好物だった。更に熱くなってきたヒメノはTシャツを脱ぎ、部屋の中をウロウロし始める。
ミカはそんなヒメノに気付き、そしてため息をつく。やはり上も下着を着けていなかった。擦れ防止のためにバストのトップには大きい絆創膏の様なシールが貼られているが、それでも大きな乳房を揺らしながら歩き回るそんな姿が目に写っては気が散って仕方ない。
「ヒメッち!もういい加減にして!邪魔するようなら帰ってよ!」
ついに怒りの声を上げるミカ。ヒメノはビクッと身体を震わし、しゅんっと肩を落とす。
「ごめん・・・悪かったよ。久しぶりにミカの部屋に来られて嬉しかったからつい、いてもたってもいられなくて・・・そうだよな。邪魔だよな。オレ、帰るよ。じゃあね。」
うつ向きながら寂しそうに部屋を出ていこうとするヒメノ。その姿を見て、ミカは胸の辺りがチクンと痛む。そして少し言い過ぎたと後悔する。
マユリは、ミカのその感情にいち早く気付いた。
「待ってヒメノちゃん。どうかな。ミカちゃんから教科書借りて、一緒に勉強しない?」
マユリの提案を聞いたミカは、『そうか、その手があったか』と今更ながらに思った。ヒメノもまた、『そうだ、最初からそうすればよかったんだ』と、考えの至らなかった自分を悔いた。
「ミカ・・・一緒に勉強してっていいか?」
ミカの顔色を伺いながら言うヒメノ。愛しのマユリがヒメノを誘ったのだ。もちろんミカも断る理由がない。
「いいよ。でも夜になったら帰ってね。」
「やった!ありがとうミカ!」
飛んで喜ぶヒメノ。大好きなマユリと一緒にいる時間が増えたのだ。感謝しかない。
「じゃあヒメッちも交えまして、改めて勉強会始めましょ。」
一先ずヒメノを自分の座っていた席に座らせ、ミカはソファーに移動する。そしてお手伝いさんを呼び、自分の机を用意してもらっていた。
しかし、そうこうしているうちに・・・
ピピピッピピピッ・・・
10:00を知らせるアラームが鳴り、最初の勉強時間が終わってしまった。消化不良のマユリとハルカだったが、まだ朝のウォーミングアップ。まあこんなもんだろうとあっさり諦めがついた。
時間割では次はおしゃべりの時間。ハルカにとってはとても楽しみにしていた時間なのだが、その前にどうしても解決しなければならない問題があった。
「あのさ、ちょっといいかな。」
改まって言うハルカ。やけに神妙な顔をしているが何なのだろう。
「ヒメノちゃん、その格好で帰るつもりだったの?」
マユリとミカもヒメノを見る。というよりも、ヒメノの胸を凝視した。
「え?」
動く度にむき出しのバストが揺れるヒメノ。そう、未だにTシャツを着ていなかったのだ。
「す、すみませんハルカさん!すぐ着ます。今着ます!」
ヤバい!ハルカさんが怖い顔してる!泣かされる!
ハルカが説教の鬼であることを知っているヒメノは、怯えたように慌ててTシャツを着たのであった。
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