第33話 乗ってつっこむ

 高級住宅街の奥に位置する、ミカの住まう家。5m越えの高いブロック屏に囲まれ、そこかしこに防犯カメラが備え付けられている。まるで、広大な敷地を隠しているような作りだが、それ故にセキュリティは万全なのだろう。

 マユリ達は正門の前にたどり着き、インターフォンのボタンを押す。


 ピンポーン


 以外にも一般家庭でも鳴る様な呼び鈴が響いた。すると・・・ひとりでに鉄格子の門が開いていく。

「おお~・・・」

 マユリとハルカは感嘆の声をあげる。しかし、門は開いたのだが、中に勝手に入っていいものか迷うマユリ達。そこに門の影からお手伝いさんが二人姿を表した。

「お待ちしておりました。どうぞ中へお入りください。」

 マユリ達は案内されるがまま中に入る。さすが金持ちの家。門をくぐったらすぐ玄関ではない。100m程歩かなければ城のような建物まで辿り着けないのだ。

 お手伝いさんの後に続き玄関まで伸びる歩道を行くマユリ達は、どうしても周りをキョロキョロ見てしまう。

 手入れされた芝生に、きちんと剪定された樹木。今歩いている歩道にはゴミ一つ落ちていない。正にプロの仕事だ。

 感動しながら歩いていたマユリ達だったが、そうこうしているうちに玄関にたどり着いていた。お手伝いさんは扉を開け、ミカを呼ぶ。

「ミカお嬢様。お客様がお見えになられました。」

 そう言うと、マユリ達を家の中に入るように促す。3人が中に入ると・・・

『いらっしゃいませ。』

 思わずビクッと体を震わすマユリ達。玄関ホールには10人以上の若いメイドさん達が並んでいて、一斉に出迎えてくれていたのだ。

「うわぁ、やっぱりすっごいね。」

「ザ金持ちって感じ。」

「いや~、久しぶりだな。」

 各々が感想を述べる。ホール一面に広がる大理石の床。天井には大きなシャンデリア。そして、これだけの人数のメイドが揃っているというのにも関わらず、まだまだあまりある玄関とは思えない程の広さ。この広さだけでもフットサルができそうだ。その玄関ホールの左右には廊下が伸びていて、その右廊下の奥からバタバタと足音が聞こえてきた。ミカだ。

「おはようございます!お待ちしてました!ようこそ我が家へ。」

 息を切らし、マユリ達の前に姿を現したミカはとても可愛かった。髪の毛を耳の辺りで左右に縛り、丈の短い白いワンピースを身に纏っている。腰にはピンクのリボンのような帯が巻かれていて腰のくびれを強調していた。

「おはようミカちゃん。その格好、凄くかわいいね。」

 思ったことを正直に口に出すマユリ。

「えへへっ。ありがとうございます。マユリ先輩。でもマユリ先輩の方こそとっても素敵ですよ🖤」

「いやほんとに、尋常じゃない位かわいいわね。その服とっても似合ってるわよ。」

 ハルカは、ミカのそのあまりの愛くるしさに、思わず顔を赤らめてしまっていた。

「またまたぁ。ハルカ先輩もそのシャツ、襟にリボンが付いててとてもかわいいですね。どこで買ったか後で教えてください。」

「いいよなぁミカは。そういう服が似合って。オレなんかがそれ着たら絶対周りから変な目で見られるよ。」

 ヒメノは羨ましそうにミカを見て言う。

「そんなことないよ。スタイルいいんだからヒメッちだってきっと似合うよ。」

 代わる代わる誉められて、照れてしまうミカ。とてもいい気分だ。

「じゃあ、あたしの部屋に案内しますね。どうぞこちらです。」

「おじゃましま~す。」

 そう言うと、外履きからスリッパに履き替えミカの案内で長い廊下を進むマユリ達。50m程歩いたところにある階段を上ればミカの部屋があるのだが、その道すがら何部屋かの前を通る。するとその中に、気になる部屋があった。

「何ここ。『遊び場』?」

 マユリは足を止め、ドアから中を覗く。そして度肝を抜いた。まるでゲームセンターがそのままあるみたいだったのだ。

「あ、そこは最新のゲーム機なんかが置いてある部屋です。好きな時に遊んでいいんですが、あたしあんまりゲームしないんで、よくお手伝いさん達が息抜きに利用してます。」

 まったく、ここのお手伝いさん達はいい就職先に出会えたものである。

「オレも遊びに来たときはよくここ使ってたよな。」

 ヒメノは昔を思い出し、感慨深そうな顔をする。

「そうだったね。ヒメッち小学生の時はよく遊びに来てたもんね。懐かしいなぁ。」

 思い出に更ける二人。

「あっ、でも今日は勉強会ですからね。ここの利用は禁止します。」

 それを聞き、少しガッカリするハルカ。実はハルカ、ゲームが好きだったのだ。

 その他にも珍しい部屋がいくつかあったのだが、そこはスルーし2階に上がる4人。そして、上りきったすぐ目の前がミカの部屋だった。入り口には『ミカちゃん』と書かれた札がぶら下がっている。 

「ここです。どうぞお入りください。」

「失礼しま~す。」

 マユリ達は揃って中に入る。やはり予想通り、いや予想以上の広さだ。フローリングに敷かれた絨毯。大きなクイーンサイズのベッド。そして今日のためにわざわざ用意したのだろう。勉強机が3つ、三方向から向かい合わせに置かれていた。どうやら思っていた以上に、ミカは勉強する気満々なようだ。

「どうぞ時間になるまでくつろいでてください。」

 勉強机の近くには、上品なダイニングテーブルと椅子が三脚設置されていた。そして休憩用に用意していたのだろう。そのテーブルの上には、ティーセットが置かれている。遠慮なく座ることにしたマユリ達。ミカは少し離れたソファーに腰掛け、3人を見ていた。どうだろう、夢にまで見たこの光景は。ライバル二人がいるのはまあさておき、愛しい人が自分の部屋にいるのだ。思わずうっとりしてしまうのは仕方のないこと。

 しかし・・・

「・・・ところで・・・」

 ミカにはどうしても言っておかなければならないことがあった。それは・・・

「何でヒメッちもいるのよ!!」

 AM9:12、長かったミカのノリツッコミが廊下まで響き渡るほどの大声で炸裂したのであった。

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