第10話 ミカVS四性天ほむら

 月曜日の放課後、ミカはとぼとぼと一人で帰り道を歩いていた。何事もなく、普通に過ごした1日。ミカはマユリを昇降口で待ち構え、一緒に帰ろうとしたのだが、その前にハルカとばったり会ってしまい、帰らせられてしまったのだ。

「マユリ、今日図書室で勉強していくって言ってたから、暗くなる前に帰りなさい。」

 心配で言ってくれていることはわかっているのだが、ハルカをライバル視しているせいか、ミカは面白くなかった。


 あ~あ、マユリ先輩と腕組んで帰りたかったな。


 夕日が歩道を照らしている。確かに夜が近づいている証拠だ。女の子一人が歩いて帰るには危ないだろう。だが、もちろんお金持ちのお嬢様であるミカの側にはボディーガードがついている。しかし、ミカが常に一緒にいるのを嫌がるため、ひっそりと身を隠しながら行動しているのだ。何が起きてもミカを守れるように。


 オレンジ色に伸びる帰り道をしばらく歩いていると、ブランドショップが立ち並ぶ歩道へと出る。相変わらお高そうなお店ばかりだ。ミカはブラインドに並ぶセンスのいい洋服を見ながらゆっくり歩く。そして次の店に目を向けようとしたとき、道の少し先に何人もの男を引き連れ歩いている顔見知りの女子の姿が目についた。


 あっ、あの子・・・


「やっほー、久しぶり。ほむらちゃん、元気してた?」

 にこやかな顔で、四性天の一人ほむらに声をかけるミカ。

「よっほー、元気だよ。ミカミカも元気?」

 ほむらも陽気に挨拶を返す。白を基調とした上品な制服に身を包んだ、見た目が完全に小学生の女の子。キャピキャピした感じが、どことなくミカに似ている。

「その人達は?」

 取り巻きの男達を指差し、ほむらに尋ねるミカ。まあ何となくわかっているのだが。

「ほむほむのお兄ちゃん達だよ。とっても優しいんだ。」

 ・・・ほむほむ?

 確か中学時代のほむらは、自分の一人称をあたしといっていたはずだが・・・


 まさか・・・妹キャラに磨きをかけたの?


 そう、ほのかは地ではなく狙ってこのキャラを演じているのだ。


 あざとい子・・・


「その子、ほむらちゃんの友達?」

 ニヤニヤとミカを見ながら取り巻きの男の一人が言う。

「そうだよ~。大の仲良しの友達なんだぁ。ね?」

 顔は笑顔だが、凄い厚をミカにかけてくるほむら。どうしても、どんな輩の前でも、このキャラを崩したくないのだ。ミカにとってほむらは、大の仲良しと言うほどではないが、仲が悪かったわけでもない。とりあえず頷くことにした。

「へぇ~、そうなんだ。いやぁ、君もかわいいね~。俺達が、君のお兄ちゃんになってあげようか?」

 うわっ、きっも~~!と思うような発言だったが、ミカはいたって冷静だ。

「いや、結構です。」

 と、真顔で答える。がっかりする男達。

「お兄ちゃん達、ほむほむこの子とお喋りしたいから帰っていいよ~。」

 ほむらは、持たせていた荷物を男達から受けとり、ミカの隣に立つ。もっとほむらと一緒にいたいキモ男達だったが、ほむらがこう言ったら帰るのが暗黙のルールになっていた。

「ハァハァ、ほむらちゃん、お兄ちゃんがまた荷物持ってあげるからね。」


 うわぁ・・・


「ハァハァ、今度ほむらちゃんに似合うかわいい服買ってあげるね。お兄ちゃんに任せて。」


 うわぁぁ・・・


「ハァハァ、ほむほむをモデルにした着せ替え人形作ったから、今度見せてあげるね。結構リアルだよ。」


 うわぁぁぁぁぁ・・・


 中にはとんでもない性癖の男もいるようだが、みんな基本的に息が荒い。きっとほむらで、色々なことを考えているのだろう。この変態どもが!

 しかし、ほむらは笑顔を崩さない。妹キャラを生業とする、プロとしての意地だろうか・・・

「ありがと🖤お兄ちゃん達、またね🖤」

 飛びっきりかわいい笑顔を見せるほむら。確実にハートを射ぬかれた男達は、メロメロになり帰っていく。そんなキモ男達の後ろ姿を見送るほむらは、ボソッと呟いた。

「男って、気持ち悪いよね。」

 無邪気に酷いことを言うほむら。まあ、ほむらのぶりっ子っぷりもどうかと思うのだが・・・

「うん。本当にそうだね。」

 そこはミカも同意件らしい。

 二人きりになったミカとほむら。早速口を開いたのはほむらだった。

「それよりミカミカ~。それどこの高校の制服?何であたしと同じ高校に来なかったの~。入れなかったの~。」

 ミカを上から下まで観察しながら、少し意地悪そうに聞いてくるほむら。

「まあかわいいけどぉ、うちの制服の方が断然かわいいよ~。」

 鼻で笑いながら、可愛らしく、スカートを揺らしながら一回転する。しかし、ミカは余裕の表情だ。

「そんなことを言っていいの?マユリ先輩もこれと同じの着てるんだよ?」

 ほむらの挑発など意にも返さず、得意気に言うミカ。余裕のほむらだったが、マユリの名前を聞いたとたん動きをピタリと止め、目を真ん丸に見開く。

「ななな、何でミカミカがマユリお姉さまと同じ制服着てるの?えっ、コスプレ?」

 完全に混乱しているほむら。驚きを隠せない。

「違うよ~。あたし、マユリ先輩と同じ高校に通ってるんだぁ。」

 更に得意気に、ほむらを見下しながら言うミカ。

 

 が~ん・・・


 ほむらは衝撃を受ける。そして、怒りの感情が込み上げてきた。


 完全に抜け駆けだぁ!


 そう、アリス同様にほむらも、未だマユリに想いを寄せている一人なのだ。ほむらの感情が手に取るようにわかるミカ。自分が優位に立っているのが快感だった。

「実はね~・・・あ、そうだ。ここから先はそこのお店で話してあげる。」

 散々自慢したいミカは、ほむらをファストフード店へ誘う。

「え~やだよ。ほむほむ今はそんな気分じゃないもん。」

 嫌な顔をするほむら。それはそうだろう。これ以上ミカの、この調子に乗っている顔を見ていたくないのだ。。

「いいの?女子高生になったマユリ先輩のこと気にならないの?」


 ムムム・・・気になるぅ~~~!


「わかったよ。その代わり、お姉さまの情報いっぱいちょうだいね。」

 渋々だが、選択の余地はなく、ほむらはミカの後に続き、店の中へと入っていく。

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