第9話 かっこ美しいですわ~!!

 地下一階駐車場。人の目に付きづらい死角のような場所で、下僕は三人の男に絡まれていた。

「ちょっと、あなた達!何をしてらっしゃるの!あっ、ワタクシのお洋服が・・・」

 まず下僕よりも、床に散乱した自分の服を気にするアリス。突然聞こえてきた女子の高い声を不快に思ったのか、裸に革ジャンの男達は揃ってアリスを睨む。

「何だぁ、お嬢ちゃん。文句あんのか?お子様はとっとと帰って小便して寝ろや。」

 ガハハハと笑う男達。何て下品な。顔を赤らめ、キッと睨み返すアリス。しかし、この状況で一番ご立腹だったのはマユリだった。

「あんたら、そこの彼とこの子に謝りな。そうすれば許してあげる。」

 少し声のトーンを落とし、警告を与えるマユリ。今度はマユリを睨み付ける男達。

「おっ!」

 マユリの顔を見て、ニヤッとしながら声を出すが、服装と身体のラインを見て肩を落とす。

「何だよ。お前みたいな華奢な女がよぉ、許せなかったら何するってんだぁ。あぁ!」

 威嚇してくる悪役A。と同時に、マユリに近づいていく。

「アリスちゃん、下がってて。」

 マユリもアリスを巻き込まないために、男達に向かって歩き始める。

 マユリの肩に手を伸ばしてくる悪役B。しかし、次の瞬間・・・


「??」

 悪役Bは床に寝ていた。


 なんだ?何が起きた?


 周りを見てみると他二人も床に寝ている。

「てめぇ!何しやがった!」

 掴みかかる男達だったが、結果は同じだ。マユリは相手の力を利用して攻撃する、武術の達人だった。従って、この程度の男達が何度挑んでも勝てる余地などなかったのだ。


 十分程経った頃、三人の男達は立ち上がることを諦めた。

「参った・・・俺達の、敗けだ。」

 降参宣言をする悪役A。マユリは息一つ乱していない。圧倒的な実力差。


 そんな光景を特等席で目撃したアリス。マユリの動きは、闘っているというよりも、舞を舞っているように美しかった。


 ああん、かっこ美しいですわ~🖤


 更に惚れ直すアリス。遠くにいる下僕も、マユリに踏まれたいと思ってしまった。

「さあ、謝ってくれるかな?」

 マユリに言われ、男達は素直にアリスと変態下僕に謝罪を述べる。

「悪かったな、お嬢さん。威圧的な態度とって。君も・・・悪かったな。俺達のタイプだったから思わずナンパしちまったけど、怖い思いさせちまったな。。」


 ??


 ん?えっ・・・


 ああ、そういうこと?

「あなた方、男性がお好きなの?」

 思わず聞いてしまうアリス。男達はもじもじと、可愛らしい素振りで照れ臭そうにしている。実は男達、初見でマユリの顔を見たとき、美少年だと勘違いしたのだ。しかし、服装や胸の膨らみを見て女であるとわかり、がっかりしたのである。

 マユリとアリスは驚いた。だが、下僕は驚くというよりもかなり引いている。


「じゃあボクたちもう行くけど、あんた達も早く帰りなよ。大怪我させないように手加減したけど、軽い打撲はしてるかもしれないから。」

 そう言い残すと、マユリは二人を連れてその場から立ち去ろうとする。

「待ってくれ姉御!」

 背後から呼び止められるマユリ。姉御?

 振り替えると男達は土下座していた。

「俺達を舎弟にしてください!」

 はぁ?

 男達の視線が、キラキラとマユリに向けられている。

 うわっ、か!

「やめて!ボク、そういうのいいから!」

 両手を振り、完全拒否を露にするマユリ。

「何故です。俺達が貴女をお守りします。」


 散々ボクにやられたくせに?


「何なりと言ってくれれば何でもご用意します。」


 犯罪のにおいがするよ。


「女は興味ないですけど、貴女ならギリギリいけます!」


 いや、いけなくていいから。


 ああもう!なんでいつもこうなるの?


 頭をかきむしるマユリ。そう、不本意ではあるが、こうやってマユリは自分のファンを増やしていってしまうのだ。

 マユリの苦労など露知らず、未だにうっとりとした顔で愛しい人を見つめるアリス。


 マユリ様に投げ飛ばされたいですわ~~


 アリスは男達に対してはドSだが、好きな女性に対してはM気質があるのだった。


 アリスさんとマユリさんにゴリゴリ踏みつけられたい・・・


 下僕もまた、こんなド変態丸出しなことを考えていた。


 かわいそうなマユリ・・・


 この後、何とか男達を振り切り、アリスと下僕を車まで送ったマユリは、デパート一階の正面入り口付近で母親と合流し、家路につくのであった。

「何かあったの?すっごく疲れた顔してるけど。」

 マユリの疲弊気味の顔を見て、心配する母親。

「ん~ん、何にもないよ。後輩の女の子とお茶してただけだから・・・」

 そう言いながら沈んでいく太陽に向かいヨロヨロと歩くマユリ。何とか夜になる前には家に帰ることができたのであった。


 自分の部屋に入ったマユリは、紙袋を開け買ったばかりの下着を確認する。

 

 ふぅ、まあ、これなら着れないこともないね。


 と思った次の瞬間、見慣れないものが目についた。

「なに・・・これ。」

 それは痴女レベル80以上の、スケスケ下着だった。


 ・・・母さん、これはさすがに着れませんよ・・・


 取り敢えず、泣きながら下着をタンスにしまうマユリ。特にスケスケは奥の方にしまった。


 ・・・こんなに下着で振り回されるなんて思わなかった・・・


 ・・・・・・


 ・・・その日の夜・・・


 疲れて油断していたマユリがお風呂に入ろうとしたとき、例の下着を着けている姿をシスコン弟に見られてしまったのだ。


 やばっ!!


 焦るマユリだったが、意外にも弟は特に騒ぎもせず、無言でその場から立ち去り、自分の部屋に入っていく。キョトンとするマユリ。


 あれ?なにか言われると思ってたんだけどな・・・


 部屋に入った弟は、そのまま窓まで行き、星空を見上げる。


 姉ちゃんは俺が守る!


 弟は姉が間違った方向にいってしまったと、完全に誤解しているのだ。しかしこの決意が今後、姉弟の絆を更に強くするのであった。

 

 


 

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