72話 とおりゃんせ。


 72話 とおりゃんせ。


  天下の面々が、センエース化によって受ける恩恵は、

 『1』が『1000』になるようなものだが、

 彼女たちのばあいは、

 『10000』が『11000』になったぐらいのもの。


 ゆえに、届かない。

 ウムルを完全制圧できるほどの力は持ち合わせていない。


 ウムルは、スルスルと、華麗に、アダムたちの猛攻を回避して、



「――『とおりゃんせ』――」



 そう言いながら、

 禁止魔カードを破り捨てると、


「はっはぁああああ!! 何もできない自分の弱さを呪いながら、そこで、指をくわえて見てろ、ぼけぇ!」


 アダム、ミシャ、シューリの三名の体が、

 まるで、アスト○ンでもかけられたみたいに、

 体がかたまって、ピクリとも動けなくなる。


 彼女たちの行動が完全停止したのを確認してから、

 ウムルは、センをにらみつけて、


「さて、それじゃあ、絶望をはじめようか。貴様の献身も、ゼノリカの覚醒も、全部無駄になる。なぜかって? 私が壊すからだ。自分の愚かさを恨め、センエース。ゼノリカを切り捨てて、完全なる孤高を貫いていれば、余裕で私を殺せた。私という巨悪から、世界を守ることができた。そこで固まっているバカ女共も守れた。しかし、貴様が、ゼノリカという『くだらない箱』に固執して、妙な情を振りまいたせいで、この絶望が出来上がってしまった。貴様は、今から私に殺される。ゼノリカも私に殺される。そこの女共も、私が体力的に完全な状態であれば殺せる。貴様を殺したあとは、体力を回復させるために、いったん、撤退することになるが、回復だけに集中すれのであれば、数時間もあれば十分。つまり、貴様は、これから、秒で殺され、貴様が大事にしていたものは、数時間以内に全滅する」


「……」


「何か言いたいことがあるなら、聞いてやるぞ。すきにほざけ。最後の言葉だ。どんな戯言であっても、私の心に刻んでやる」


「……ほんとに、俺のステータス、めちゃくちゃ低下してやがる……レベル1で、攻撃力や防御力なんかの基礎ステも、のきなみ一桁……GODポイントで獲得した基礎ポイントも一桁……えぐいな……また、数値を上げる作業をしないといけないのか……ダッッルゥ……」


 などと言いつつも、

 その口元はほころんでいた。


 頭の中では、すでに、プランが沸き上がっている。

 『どうやって上げよう』と考えている時間が一番の至福。


 そんなセンに、

 ウムルは、


「妄想をするのは自由だが、未来に想いを馳せる権利はないぞ。貴様は、今から私に殺される」


 そこで、センは、

 ようやく、ウムルに視線を向けて、


「……お前が、俺を殺す? どうやって?」


 本気で『分からない』という顔をするセンに、

 ウムルは、普通にイラっとした顔で、


「今の虫ケラに等しい今の貴様など、鼻息で殺せる」


「まあ、確かに、俺が『レベルの数値』以外に何もない虫ケラだったら、鼻息で殺せたと思うぜ……」


 そう言ってから、センは、

 少しだけ、何かを考えるように、視線をそらし、


「……いや、どうだろうな……前にレベル1だった時も、俺、普通にお前を殺せたしな……」


 ゼノ・セレナーデで、はじめてウムルと対峙した時のことを思い出しながら、ウムルを煽っていくセン。


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