73話 まさか、お前、俺より強いつもりか?


 73話 まさか、お前、俺より強いつもりか?


「……いや、どうだろうな……前にレベル1だった時も、俺、普通にお前を殺せたしな……」


 ゼノ・セレナーデで、はじめてウムルと対峙した時のことを思い出しながら、ウムルを煽っていくセン。


 ウムルは眉間にシワを寄せて、


「今の私は、あの時の私とは格が違う。磨き抜かれた私の魂魄は、この状況からの逆転を許容しない」


「そうだな。お前は強くなっているよ。大きく磨かれている。別格といっていい。けど、『俺の道程』と比べたらショボすぎる」


 そう言いながら、センは、天を仰ぎ、


「ありとあらゆる地獄を経験して……俺は、今日という日に辿り着いた。そんな俺の『敵』を張れるほどの器が……はたして、お前にあるか?」


「虫ケラの分際で、ずいぶんと上からモノを言ってくれるじゃないか」


 そう言いながら、

 ウムルは、足に力を込めた。


 ほんの少しだけ。

 腕にも力をこめる。

 ウムルの『感覚』としては、

 豆腐を握りつぶすぐらいの感じで、

 『センの片腕を粉砕しよう』と動いた。

 防御力のステータスが一桁の虫ケラをつぶせないわけがない。


 そんなウムルの行動に対して、

 センは、


「ずいぶんとナメたムーブだな。まさか、お前、俺より強いつもりか?」


 そう言いながら、

 ヌルリと、ウムルの攻撃を避けて、

 そのまま、ウムルの顔面にデコピンをかましていく。


 なんの装飾もない、ただのデコピン。

 そんな、安い一撃を受けたウムルは、

 しかし、


「ばっはぁああっ!」


 豪快にのけぞって血を吐き出した。

 状況が理解できないウムルは、


「俺のレベルは、確かに最低値まで低くなったな……けど、レベル1時の戦闘訓練なら、ゼノで死ぬほど積んできた。いまさら、この程度で、オタオタするほど、俺は『坊や』じゃない」


 『それに』と、言葉をつないで、


「なくしたわけでも、捨てたわけでもない。『注いだ』んだ。『貯金全額を投資した』みたいなもんだな。手元に金はなくとも、俺が積み重ねたものは、投資先に間違いなく存在している。存在しているだけじゃない、膨らみ続けている」


 チラと、エアディスプレイに目線を向けてみると、

 そこでは、ゼノリカの面々が、胸の前で両手を合わせて、

 一心に祈りをささげていた。



 センエースの勝利を願っている。

 センエースに愛をささげている。

 心の底から湧き上がる魂の叫び。

 己の全部をセンエースに捧げる。

 『ゼノリカの覚悟』が注がれる。



「……『狂気の信仰』と、『病的な献身』……あいつらと俺の中に発現した『この上なく尊き魂の系譜』に刻まれているプラチナスペシャル。効果は単純。子の信仰と献身が、そのまま俺の力となる。子の強さと、信仰の度合によって、上昇率は変動。簡単に言えば、『高潔な強者』に愛されれば愛されるほど、俺は強くなる」


 センの『暴露のアリア・ギアス』を受けて、

 ウムルは、心の中で、


(……つ、つまりは、蝉原の『ディアブロ・コミュニティ』と同じ系統のスペシャルってことか……)


 センの中学時代の同級生にしてヤンキーの王様『蝉原勇吾』。

 彼のプラチナスペシャル『ディアブロ・コミュニティ』は、

 『蝉原を愛する悪人の数が、そのまま蝉原の力になる』というもの。

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