68話 閃光のアリア・ギアス。


 68話 閃光のアリア・ギアス。


 ――ああ……命の王よ――


 ゼノリカの面々は、さらなる恍惚に包まれていた。

 『センエースの覚悟』に触れるたび、

 その想いの深さに眩暈(めまい)がしてくる。

 クラクラと混乱しそうになるほどの愉悦に包まれる。


 この日、ゼノリカは、

 『偉大さ』や『尊さ』という概念の最上位を知った。


 この『気高さ』と『高潔さ』を超える神は存在しない。

 この御方だけが、この世界の頂点に立つべき絶対の神。


 理解は、覚悟に変化していく。

 『絶対に失いたくない』という想い。


 ゼノリカに注がれたセンエースの生命力が、

 ゼノリカの中で蒸留されて、

 もっと別の『新しい概念』になっていく。


 簡単に言えば、

 『狂気の信仰』の『レベル』が爆上がりしていく。

 えげつないほど濃度が増して、

 ドロドロになった感情たちが、

 『センエースという概念』の『中心』にからみついていく。


 ――我々の命は、あなた様のもの――

 ――あなた様の死は、我々の死――


 勝手に『謎の契約』をかわしていく厄介な信者たち。

 セン的には『勘弁してほしいだけ』のイカれた覚悟を、

 ゼノリカは、ノリノリで世界に刻み込んでいく。


 ――おい、やめろ。勝手に変なアリア・ギアスを刻むな――


 センエースの慟哭は届かない。

 ゼノリカの暴走は止まらない。


 ――ちょ、いや、うゎっ……お前ら、マジか――


 センエースは絶句した。

 ゼノリカが世界に刻んだのは、

 キ〇ガイの最終フォーメーション、

 ――『閃光のアリア・ギアス』。


 センエースの命と強制的にリンクする。

 『勝手に婚姻届けを提出されたみたいなもの』と言えば、

 センが、ゼノリカから、どれだけのカウンターをくらったのか、

 多少は想像できるだろうか。


 ――我々の全てを、受け取っていただく――


 ゼノリカは、センに、

 『すべて』を、勝手に押し付けていく。


 拒絶を許さない強引な一手。


 ――その結果、

 センの『カケラ』が、


「ぶはぁああっ!」


 現世に残った。

 酸素が、呼吸器系と循環器系を駆け巡る。

 ヘモグロビンが泡立つ。


 命の輪郭を感じる。

 絶死の覚悟が踏みにじられる。


 レベルとGODレベルのほぼすべてを失ったものの、

 『センの死』だけは、どうにか、まぬがれた。






 ★






 ――ここは、裏ダンジョン・ゼノリカ。


 センが死をまぬがれた――『その事実』を、『意識の奥』で認識すると、

 『ゼノリカの面々』は心底からホっとした。

 『ああ、よかった』と胸をなでおろす。

 と同時に、

 『この上なく尊き命の王を死なせてしまうかもしれなかった』、

 という自分自身の事実に怒りを覚える。


 その怒りは、そのまま、

 目の前の『影』に注がれる。


 甦ったゼノリカの面々は、

 イカれた狂信者の目で、

 100万のアルテマウムル・シャドーたちをにらみつける。


 ギラリッッ!!

 という、『爆音の効果音』が確かに聞こえた。

 ゼノリカの圧力と胆力に、

 100万のシャドーたちは普通にけおされる。


 根源的な恐怖を感じた。

 脳の奥から、バチバチと、

 イエローシグナルが核分裂を起こす。


「……こ、怖いな……」


 『890000号』が、ボソっと、本音を口にした。


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