67話 王の仕事は……


 67話 王の仕事は……


 概念が結集していく。言葉にならない想いを形に変えて、『届け』と叫びながら、センは、自分の全部をゼノリカにささげる。


 無意識の中で、

 ゼノリカの面々は、

 『自分達を包み込んでいる神の輝き』に酔いしれる。


 至高の至福。

 『彼・彼女たちの魂魄を構成している粒子』の一つ一つが満たされていくのを感じる。

 質量を取り戻していく。


 感情が暴走。

 魂魄が輝く。


 ――その全部が一つになって、

 ゼノリカはよみがえる。




 ―――――――※※―――――――




 完全なる死を迎えた命が、

 コスモゾーンから回収されて、

 元の器に注がれていく。


 その過程を経るたびに、

 『センエースの生命力』は削られている。


 その事実を、ゼノリカの面々は、無意識の中で理解していた。

 自分達は、『この上なく尊い王』を『喰らう』ことで生かされている。


 その理解によって、

 『至高の至福』が『許しがたい大罪』となって、

 彼・彼女らの心を蝕んでいく。


 ――おやめください――

 ――我々なんぞよりも、あなた様自身を優先させていただきたい――


 そんな懇願がセンの中心に注がれていく。


 だが、知った事ではなかった。

 センは、彼・彼女らの想いを完全にシカトする。


 ――黙って、喰らい尽くせ――

 ――王の仕事はふんぞり返ることじゃない――


 ――責任を取ることだ――



 『センエースの献身』の『重さ』が、

 ゼノリカの心の中心に注がれていく。


 センエースを止めることはできない。

 無意識の中で、『ソレ』を深く理解したゼノリカの面々は、


 ――あなた様を、失いたくない――


 全員の想いが一致した。

 自分たちは死んでもいいから、

 センエースには生きていてほしい。


 そんな願いが一つになって、

 グツグツと煮立って、

 重なり合って、

 そして、



 ――我々の命、その全てをささげます――



 センエースからもらった命を、

 そのまま、そっくり、センエースに返そうとするゼノリカの面々。


 その行動に対し、

 センは『アホを見るような渋い顔』をして、


 ――いや、あの……返されたも困るんだよ――

 ――お前らに渡した命を、すぐ返されるって――

 ――これ、俺、なにしてんだよ――

 ――なんの意味もない1ターンじゃねぇか――

 ――ウムルという『やべぇ敵』を前にして――

 ――なんで、俺ら、束になって『事実上のパス』してんだよ――


 センは、自身が『この世でもっとも愚かだ』と認識している、

 『いやいや』『いやいやいや』の無限応酬が始まろうとしているのを感じて、


 ――お前らの意見なんか知らん――

 ――俺は王だ――

 ――責任が重い代わりに――

 ――絶対の命令権を持つ――


 ――お前らの望みは全部却下――

 ――俺の命を喰らい、甦(よみがえ)れ――

 ――以上――

 ――理不尽? 当たり前だ。王ってのは、そういうもの――


 センは、『自分がささげた命』を『秒でクーリングオフしようとしてくるゼノリカの面々』に対し、『絶対の命令』を押し付ける。


 センは、『強制力』を限界まで強化して、

 ゼノリカに、自分の命を注ぎ込もうとする。


 言葉とノリだけは、少し軽めのセン。

 けれど、やっていることは、すべて、

 胃もたれで吐き気がするほど重たいハイカロリー。




 ――ああ……命の王よ――




 ゼノリカの面々は、さらなる恍惚に包まれていた。

 『センエースの覚悟』に触れるたび、

 その想いの深さに眩暈(めまい)がしてくる。

 クラクラと混乱しそうになるほどの愉悦に包まれる。

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