66話 リラ・リラ・ゼノリカ。


 66話 リラ・リラ・ゼノリカ。


 センエースの記憶に触れたことで、

 彼・彼女らは、ついに、『センエースの献身』を正しく理解した。


 完全に理解できたわけではない。

 あくまでも『記憶の一部』に触れただけ。

 しかし、どの記憶に触れても、

 理解せざるをえないくらい、

 センの道程は、世界に対する献身であふれていた。

 まっすぐ理解することが難しい狂気の慈愛。

 『病的な高潔』を軸にして、『不屈の魂魄』をきらめかせ、

 命の全てに寄り添う『絶対的精神的支柱』であり続けた。


 ――これが……命の王……――


 センエースを知らなかった者はもちろん、

 センエースを知ったつもりになっていた者たちも、

 みな、一様に、

 これまでの自分を恥じた。


 自分たちは、何一つ理解できてなどいなかった。

 本当に、なにも分かっていなかった。


 『これまでの、センエースに対する敬意が足りていなかった自分』を全力で恥じる。

 そして、その分だけ、自分たちの王の尊さを思い知る。


 王は美しかった。

 『聖典は嘘だった』と知った。

 聖典に怒りすら覚えた。

 聖典は、何も表現できていない。

 王の美しさが全く表現できていない。

 『ダイヤモンド』を『石ころ』にように描いている。

 許されない。


 羞恥と感動と憤怒と。

 無数の『ふり切った感情』がゴチャまぜになって、

 頭の中が大混乱の大戦争を起こしている。


 そんな、山ほどのグチャグチャになった感情を抱えたゼノリカ。

 気づけば、



 ――リラ・リラ・ゼノリカ――



 と、魂の全部が、賛美歌の合唱を奏でていた。


 その歌声が、センの耳にも届く。

 センは、普通に、


 ――やかましい、うるせぇ――


 と思っていたが、しかし、

 そんなセンの『ちっぽけな感情論』などシカトして、

 ゼノリカの面々は、

 想いのたけを歌にぶつけるようにして、

 全力で合唱。


 ――リラ・リラ・ゼノリカ――

 ――リラ・リラ・ゼノリカ――

 ――リラ・リラ・ゼノリカ――

 ――リラ・リラ・ゼノリカ――

 ――リラ・リラ・ゼノリカ――

 ――リラ・リラ・ゼノリカ――

 ――リラ・リラ・ゼノリカ――

 ――リラ・リラ・ゼノリカ――



 ――うるせぇ、うるせぇ! ガチで耳がキンキンするぅ――


 顔をゆがめるセン。

 『必死になって作業をしている横』で、

 『爆音の邪魔』が入って心底から辟易。


 本物の鬱陶しさを感じつつも、

 しかし、心の深部では、

 彼・彼女らの『強い想い』を嬉しくも感じていた。


 『愛されている』という深い理解が、

 センの中で浸透していく。


 自分が全力で創り上げてきたもの。

 自分が必死に守ってきたもの。


 その『総量』を改めて実感する。

 命の深い部分が熱くなった。

 ドクドクと脈打つ。

 秒を飲み込んで輝きを増す。


 『幸福の意味』が理解できたような気さえしたのだ。



 ――歌わんでいいから、黙って、俺を喰らい尽くせ――

 ――王や英雄を名乗ってきたのは伊達じゃねぇ――

 ――お前らに全部くれてやる――

 ――これが俺の全部――

 ――俺の想い――

 ――お前たちは美しい――




 ――愛してるぜ――




 概念が結集していく。

 言葉にならない想いを形に変えて、

 『届け』と叫びながら、


 この上なく尊き命の王『舞い散る閃光センエース』は、

 『自分の全部』をゼノリカにささげる。


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