65話 センエースの献身。
65話 センエースの献身。
――さすがに、俺の全部を防ぎきれるほどじゃねぇ――
――俺が積み重ねてきたものを、ナメんなよ――
センエースの全部が束になって、
虚空の呪いに対し、
――龍閃崩拳――
磨き上げてきた拳を叩き込む。
――ひとたまりもなかった。
呪いの精度が低かったわけではない。
センの拳が重すぎた。
センは止まらない。
『ゼノリカに属する者たちのコアオーラ』を全て回収すると、
その大量のコアオーラを抱えて『現世』に戻る。
その流れの中で、センエースのコアオーラは、
ボロボロと、崩れていった。
今、センがやっていることを、
一般人の行動に例えると、
『生身で、100メートルぐらい海に潜って、ただよっている魚の死骸数百~数千を手作業で回収する』みたいなこと。
『なんで、そんなこと実行できてんの?』と疑問符を抱かずにはいられない無茶を、
センは、命を削りながら、平然とこなしている。
『完全なる死』を代償としていながら、
しかし、センは、
『そんなことに意識を向けている余裕はない』、
とばかりに、ただただ必死に、
ゼノリカの面々を復活させることだけを考えて行動している。
そんなセンの、常軌を逸した献身は、
『重たい思念』となって、
『センに回収されたコアオーラ』たちに注ぎ込まれた。
――アルテマウムル・シャドーに殺されたゼノリカの面々は、
『深い暖かさ』と『無上の輝き』の中にあった。
無意識の中に注ぎ込まれたセンの献身。
それは、ただの感情ではなく記憶を伴っていた。
センが積み重ねてきたものの一部が流れ込んでくる。
それに気づいたセンは、一瞬だけ、そんな『記憶の流出』を止めようとしたのだが、
現状、それをする余裕はなかった。
例えるなら、『生身で、100メートルぐらい海に潜って、ただよっている魚の死骸数百~数千を手作業で回収している途中で、背負っていたリュックが開いてしまって、閉めようとしたけど、手が届かなくて、諦めた』みたいな感じ。
// ――【裏設定・無粋なネタバレ】 誰が、そのリュックを開けたのか。それは、センの中に刻まれているオメガの因子。目的はいやがらせ。それ以外の理由は特にない。オメガは、ゼノリカに、センを教えたかった。押し付けたかったと言ってもいい。だから、禁止魔カード・セレナーデで違法ダウンロードした『記憶』のコピーを、盛大にバラまいた。その記憶は、ご丁寧に、ゼノ・セレナーデでの記憶も含まれており、ほぼ『センの全て』といっても過言ではない完全なデータとして、ゼノリカの中へと浸透していく。
バラまかれた記憶のことを考えている余裕はなかった。
セン的には、とにかく、てんやわんやで、
あたふた、ブクブクしながら、
必死になって、コアオーラを回収しまくっている。
そんなセンのあたふたとは裏腹に、
ゼノリカの面々は、
『暴力的な恍惚』に浸っていた。
『感動』という概念の全部が、
津波のように襲い掛かってくる。
センエースの記憶に触れたことで、
彼・彼女らは、ついに、
――『センエースの献身』を正しく理解した。
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