64話 とんでもなく無能で、不出来な、恥ずかしい命の王様。


 64話 とんでもなく無能で、不出来な、恥ずかしい命の王様。


 今日もまた、センはゼノリカの殉教者になる。

 彼の、ゼノリカに対する狂い方は、実のところ、

 センエースを愛する狂信者が束になっても敵わない。


「――200億3万年かけて『磨きぬいてきた俺の全部』をくれてやる。……『お行儀のいい反魂術を拒絶する』ってのは、まあ、ほんと、なかなか、すげぇ呪いだが、しかし、『死』も、しょせんは、状態異常の一つ。どんな状況であれ、『完全耐性』はありえねぇ。……アルテマウムル・シャドーに込められた呪いとやらを……俺の全部で圧殺してやる。つまりは……俺の命をゼノリカにささげる」



 この上なく尊き神が、

 磨き上げてきた命の全部を膨らませて輝く。


 その様子を見て、

 それまで黙っていたシューリが、我慢できなくなったように叫んだ。


「ふざけるなぁあああああ!」


 血走った目。

 怒りで『いつもの演技』を忘れるほどに、


「ゼノリカなんて、あんなカスみたいな組織のために、あんたが死ぬなんて許さない!! というか、あんたが死んだら、誰が、そこにいる化け物を倒すんだ! 言っておくが、あたしたちだけでは絶対に勝てないぞ! あたしたちを見殺しにする気かぁ!」


 そこで、ミシャとアダムも、


「主上様! それはなりません!」


「セン様! それだけは!」


 彼女たちの悲鳴のような説得に対し、

 センは、


「嘘つくなよ、シューリ。今のウムルは、俺にボコられて死ぬ直前だ。お前と、アダムとミシャが詰めれば削り切れるさ」


「そいつだけの話じゃない! 『そいつの主とやら』はどうするつもりだ! 本物の絶望を超えられるのはあんただけ! あんたが死んだら終わりなの! わかってるでしょ!」


「シャドーとの闘いを見ていて確信した。ゼノリカならやれる。ゼノリカは、俺が思っていたよりも、ずっと大きな組織だった」


 そこで、センは、シューリに視線を向けて、


「シューリ……お前が率いるゼノリカは、俺みたいな低能が率いるゼノリカよりも、もっと大きくなるだろう。俺がいなくても、お前らが残っていれば、どうにかなる」


「ふざけ――」


 叫ぼうとするシューリの口を、

 センは魔法でふさいだ。

 アダムとミシャも同様にして、

 文句をいわさない体制を整える。


「とんでもなく無能で不出来な『恥ずかしい王』だったが……俺が王であるというのは事実だから……責任ぐらいはとらせてもらうさ」


 そう言って、

 センは、世界と自分をリンクさせる。

 そして、ささげる。


「……俺が愛した輝き、すべてを包み込む光――ゼノリカよ。最後の命令だ」


 ――全部を。






「俺の命を喰(く)らい……甦(よみがえ)れ」






 強烈な閃光。

 深い光を放つセンエース。

 その光は、次元を超越して、

 ゼノリカの魂魄に注がれていく。


 飛び交う粒子の一つとなって、

 失われたコアオーラを、

 コスモゾーンから回収する。


 死と言う状態異常に対する反逆。

 その流れの中で、

 『虚空の呪い』が邪魔をしてきた。


 センは思った。


 ――ああ、これは確かに重たい呪いだ――


 理解すると同時。

 センはニっと笑って、


 ――けど、さすがに、俺の全部を防ぎきれるほどじゃねぇ――


 ――俺が積み重ねてきたものを、ナメんなよ――


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