62話 虚空の呪い。


 62話 虚空の呪い。


「私も、たいがい無様だが、しかし、ゼノリカの全滅を、指くわえて見ているしかなかった貴様は、それ以上の無能だ!」


「そうだな……お前の言う通りだ……アルテマ・ウムル……」


 アルテマ・ウムルは、センとの闘いで、

 ずっと、『堅』に徹していた。


 彼の役割は、『アルテマウムル・シャドー』が『ゼノリカを殲滅するまでの間』、全力でセンエースの足止めをすること。


 いっさい、攻撃などは行わず、

 ひたすらに、防御に徹した結果、

 アルテマ・ウムルは、

 センの足止めに成功した。


 膨大な生命力を盾にするだけでは、センエースの突破力を抑えきれない。

 だが、アルテマ・ウムルはただの生命力オバケではない。

 センエースと100万回の死闘を繰り広げた器を持つ生命力オバケ。

 だから、新たな境地(レゾナンス)に辿り着いたセンエースでも、

 そう簡単には殺しきれなかった。


 ウムルが、上空に『無数のエアディスプレイ』を出現させ、

 ゼノリカが蹂躙されるさまを実況中継しはじめて以降、

 『膨れ上がった怒り』のコントロールが大変だった。


 丹田に集中して『暴走しそうになるオーラ』を鎮めて、

 命の輪郭がバグりそうになるのを必死になってとどめた。

 怒りのコントロールに成功した結果、

 普段よりもはるかに質の濃いオーラと魔力を練り上げることができた。


 センは最善手を打ち続けた。

 積み重ねた全てを丁寧に並べて揃えて、

 ウムルを削り切ろうと全身全霊を賭した。


 センは、ゼノリカを救うべく、必死になってウムルを殺そうとして、

 ――そして、失敗した。


 というよりも、『アルテマ・ウムルが、素晴らしい成果を出した』と言った方が正確。

 センは何もミスを犯していない。

 最初から最後まで、ずっと、最善手を打ち続けていた。


 ゆえに、現状は至極単純な話。

 『こんな短時間で、アルテマ・ウムルを殺すのは不可能』。

 それだけの話。


「さっきも言ったが、改めて、もう一度、言ってやる! 私のシャドーには、『虚空の呪い』が刻まれている!」


 ゼノリカの面々が、アルテマウムル・シャドーに殺されている最中(さなか)、

 アルテマ・ウムルは、センに告げた。

 アルテマウムル・シャドーには『強い呪い』が刻まれている。


「シャドーに殺された者は、この世に存在するすべての反魂術を拒絶する。貴様の神聖式でも、あいつらを復活させることは叶わない! 銀の鍵も、もう存在しない! ゼノリカは完全に死んだ! 貴様が守れなかった『命の重さ』を思い知れぇ!」


 センの心を刻んでいくウムル。


 センは、ボソボソと、


「俺は王として失格だ。……というより、王として合格だったことが、これまでの神生で一度もない……そもそも、俺は王の器じゃない」


 静かな声だった。

 怒りや悲しみが『一定量を超えている』のがうかがえた。

 センエースの中で、無数の感情が渦を巻いて……巻きすぎて、

 まるで、台風の中心みたいに、

 驚くほど静謐(せいひつ)になっている。


「それでも、守りたいと思うものがあった……失いたくないもの……」


 ぐつぐつと、静かに煮立つ。

 キンと静かに張り詰めながら、

 しかし、その奥では『無数の感情』が『割れる前の風船』みたいに膨らんでいる。

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