61話 センの心を心配するヒロインズ。


 61話 センの心を心配するヒロインズ。


「しかと見せてもらった……お前たちの覚悟……積み重ねてきた努力の結晶……見事だった……」


 静かな涙を流しながら、

 センはボソボソと、想いを口にする。


「お前たちはすごかったよ……本当に……素晴らしかった……俺が、これだけ全力を出しても殺しきれていないアルテマ・ウムルのシャドーを……300体も殺してみせた……本音を言うと……俺の予想では、10体も殺しきれないだろうと思っていた」


 『想い』があふれてくる。

 大事な配下が殺された悲しさと悔しさの内側で、

 大事な配下が大きく成長したという嬉しさが膨れ上がる。


「……お前たちは、俺の誇りだ……愛している……」


 心の底から思う。

 これまでもずっと思ってきたが、

 あらためて、センは、彼らに対して、

 敬意と愛情を示した。


 後ろにいるミシャも、センほどではないが、

 同じように感想を、ゼノリカの面々に抱いていた。


「ゾメガ……平……本当に、見事だったわ。同僚として、誇らしい」


 ちなみに、アダムとシューリは、もちろん、別だった。

 ゼノリカのことなどどうでもよかった。

 そんなことよりも、『センの心』が心配だった。

 センが『ゼノリカを大切に思っていること』は二人とも知っている。


(主上様が見ているというのに、あっさり全滅しやがって……根性の足りないクソども……私的には、貴様らが死のうがどうしようが、どうでもいいが、主上様はそうじゃないんだぞ……主上様を悲しませやがって、クソがぁ……)


 アダムの心は、ゼノリカの面々に対する怒りに満ちていた。


 『ゾメガと平』は、まだいい。


 敵との戦力差を考えれば、まあ、頑張ったほうだと言えた。

 だが『天下の面々は話にならない』というのが彼女の評価だった。


 シューリは、ゼノリカの面々に対してなんの感情もなかった。

 シューリにとってゼノリカは『大切な人が大切にしているもの』でしかない。

 もっと言えば『大切な人が、自分をおざなりにするほど大切にしていているもので、ぶっちゃけ、すごく鬱陶しいので、できれば捨ててほしい』と思っているもの。

 だから、ゼノリカが敗北したことはどうでもいい。

 問題なのは、ゼノリカを失ったことによって、センがどうするか。

 そこだけが心配。

 シューリは、


(ま、まずい……センの空気感……間違いなく、すごく鬱陶しいことを考えている……)


 額に汗を浮かばせた。

 センの『静かな背中』から『とんでもない覚悟』を感じ取ったから。

 長い付き合いだから分かる。

 『ずっと想い続けた相手』のことだから分かる。



 ――と、そこで、

 『アルテマ・ウムル』が、センを強い目で睨みつけたまま、


「はっ! そんなことを言いながら、結局、守れなかったじゃないか! 無様だな! センエース! 『あんな状態の平熱マン』に『シャドーを殺された私』も、たいがい無様だが、しかし、ゼノリカの全滅を、指くわえて見ているしかなかった貴様は、それ以上の無能だ!」



「そうだな……お前の言う通りだ……アルテマ・ウムル……」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る