60話 ヒーローは、ここにもいた。


 60話 ヒーローは、ここにもいた。


「ぬぅ!」


 吹っ飛んだ自分の腕を見て、顔をしかめるウムル。


「その状態で……どうして、そんな一撃を放てる……」


 ウムルの問いかけに、平は応えない。

 ただただ、まっすぐな目で、

 決して折れることなく、

 奥歯をかみしめながら、


「……ヒーロー……見……参……」


 さらに、

 もう一度、追撃の一手を放とうとする。


 そんな平熱マンに、


「――神速閃拳――」


 ウムルは、豪速の一撃を叩き込んだ。

 剣をへし折りながら、平熱マンの顔面にぶちこむ。

 それは、まるで、恐怖に駆り立てられたような一撃だった。


 とにかく、はやく、この恐怖を終わらせたかった。

 そんな思いから、速度重視で火力の低い先制技を放ってしまった。

 その弱さを、平熱マンは見逃さなかった。

 ギリギリのところで生きのこった平熱マンは、


「……閃……拳……っ」


 カウンターではない。

 モロに一撃をもらった上での特攻。

 肉を切らせて骨を断つ。

 すでに高速移動や瞬間移動はできない平熱マンにとって、

 自ら距離を詰めることはもうできない。

 となれば、もはや、この手しかない。

 平熱マンは、最後の最後まで、

 熔(と)けない殺気を纏い続けた。


 自分の命が消え去っていくのを感じつつも、

 生涯最強の閃拳を、ウムルに叩き込むことに成功。


 中心を貫かれたウムルは、


「……嘘……だろう……」


 自分の胸部に風穴が空いているのを確認して、

 平熱マンに対して全力で引き散らかす。


「そんな状態で……私を……殺す……のか……」


 フラついて、

 ばたりと倒れて、


「……イカれた……狂信者どもが……」


 最後に、ボソっと、そう言った。

 彼の言葉は、平熱マンの耳には届いていない。


 300号が息絶える直前に、

 ――平熱マンは死んでいたから。


 綺麗なダブルノックアウトを見届けた『890000号』は、


「想定よりも、ずいぶんと時間がかかったが……まあ、とにもかくにも、これで、ゼノリカは全滅、と」


 そう言いながら、うーんと、伸びをして、


「いやぁ、しかし、まさか、あの状態から、300号が殺されるとは思わなかった……あそこだけを切り取って見たら、私がとんでもない雑魚に見えてしまうじゃないか……不快だねぇ……」


 やれやれと、しんどそうに溜息をつく。







 ――そんな『890000号』と全く同じ感想を抱く化け物が一人。







 彼の名前はアルテマ・ウムル。

 アルテマウムル・シャドーの本体。


 ――『裏ダンジョン・ゼノリカ』とは『違う場所』で、

 センエース相手に、時間稼ぎをしていた化け物の本体。


 今、『本体』である『アルテマ・ウムル』は、死にかけのズタボロ状態で、


「……300号のボケがぁ……そんな完全死にかけの平熱マンごときに……殺されるなよ……くそが、くそが……くそがぁ……」


 心底から悔しそうにそう言いながら、

 『上空に映し出されている無数のエアディスプレイ』から目線を離して、

 センエースに集中する。


 そんなウムルの視線の先で、

 センエースは、エアディスプレイに釘付けになっていた。

 エアディスプレイに映し出されている平熱マンとゾメガの死体を見つめて、



「……見事だった……」



 心の底から称賛を贈る。

 彼ら二人に対してだけではない。

 センは、平熱マンとゾメガの死体が映し出されているエアディスプレイ以外の、

 ゼノリカの面々の死体が表示されているエアディスプレイそれぞれに目を配って、



「しかと見せてもらった……お前たちの覚悟……積み重ねてきた努力の結晶……見事だった……」



 『静かな涙』を流しながら、

 センはボソボソと、想いを口にする。


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