75話 好きな人。
75話 好きな人。
「もちろん、喜んで手伝わせていただきますよ。これから、パートナーとして、よろしくお願いします」
パートナーという部分に強いアクセントをつける黒木。
そんな彼女の心情を知ってか知らずか、センは、
「そ、そうか、助かるよ、はは」
死んだ目のまま、かわいた笑い声をあげる。
と、そこで、
図虚空が、センの目の前に、勝手に出てきた。
急に『図虚空が召喚されたこと』に対し、
黒木は驚いているが、
しかし、現状、センも軽く驚いているので、
彼女の驚愕を慮っている余裕はない。
そんな状況の中、図虚空の中にいるヨグシャドーが、
センを睨みつつ、テレパシーで、
(センエース。言っておくが、『条件を満たせなかったとき』に召喚される『私の本体』は、『影でしかない私』の軽く『1000倍以上』だと思っておいた方がいいぞ。もちろん、『現在の私』の1000倍ではなく、『貴様を圧倒していた時の私』の1000倍だ)
(……)
(……『存在値を与えられた』とはいえ、『カケラの影』に過ぎない、この『脆弱な私』にすら手も足も出なかった貴様では、どうあがいても勝てる相手ではない。私の本体は次元が違う)
(……)
(それを踏まえた上で、どうするか考えろ)
(……)
(一つだけ助言しておこう。逃げれば、明日はこない。今日を頑張りぬいた者にのみ、明日がくる)
(うっせぇ、ボケぇ……んな班長テンプレは、わざわざ、神の頂点様から言われなくとも、知ってんだよぉ……)
ギリィっと奥歯をかみしめるセン。
そんなセンの不穏な雰囲気に気づいた黒木が、
いぶかしげな顔で、
「えっと、あの、どうかしましたか?」
「……」
「あの……センさん?」
「……」
センは、散々悩んだすえに、
「黒木……」
「は、はい、なんでしょう?」
「あの……その……」
だいぶ、ゴニョついてから、
しかし、最後には決心をして、
「お前……好きな人とか……いる?」
「……は?」
唐突な質問に、ただただ困惑する黒木。
「好きな人……ですか……えっと……」
質問の内容を咀嚼し、
その優れた頭脳で、多角的に思案した上で、
黒木は、
「いないと言い切ってしまうと、嘘にもなりえますが、しかし、実際のところは、完全な嘘ともいえない段階にある……と言ったところでしょうか」
「だいぶ歯切れが悪いな……」
「自分の感情を完全に理解するのは、なかなか難しいですからね。正直、今の私は、自分自身に困惑している段階です。『昨日まで』は『この手の感情』が、自分の中に沸き上がることは、『おそらく、ありえないだろう』と思いながら生きてさえいましたから」
「あ……そう……」
「ええ、『昨日まで』の私は、一生、愛とか恋とか、そういう感情には背を向けて生きて死ぬのだろうと思っていました。そう、つい『昨日まで』は」
含みのある発言を連発する黒木。
確定的なワードを避けている、
というわけでもないのだが、
しかし、決定的な部分は、
シッカリ、ゴッソリと、かすませていくスタイル。
センは、
(おいおい……なんだ、その目ぇ……こっちに、『何かしら』をゆだねてくるような目はやめてくれ。その手のアレコレを、しなやかに受け止めきれるだけの度量なんて、俺にはねぇんだよぉ……ああ、ダメだ、この空気、ムリだ……)
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