74話 ついに諦めたヒーロー。


 74話 ついに諦めたヒーロー。


 美しい空き巣――黒木愛美は、ベッドで横になっているセンをジト目で見つめながら、


「……さきほどのイタ電はどういうつもりのアレですか?」


 と、開口一番、『当たり前の疑問』をぶつけてきた。


 そんな黒木愛美に対し、

 センは、数秒だけ黙ってから、


「あー……いや、イタ電をする気は、マジでゼロだったんだが……なんというか、かなり言い出しづらいことだったから、ちょっと、切り出し方に迷ってしまって……うん、そんだけ」


「……随分と歯切れが悪いですね。アウターゴッドやGOOを相手にしていた時のあなたは、ただただ、最高のヒーローでしたが、今のあなたは、まるで、どこにでもいる世界一最悪の童貞のようです」


「……世界一最悪の童貞は、どこにでもいねぇだろ。だいぶ、レアな存在だと思うぞ」


 などと、どうでもいい言葉で、

 いったん、お茶を濁すセンに、

 黒木は、


「で? 私に何の用ですか? こんな回りくどい手法で、あえて、私だけを呼び出したのには、それなりの理由があるのでしょう? おそらくは、世界の終わりに関する何か特別な――」


「いや、回りくどい手法で呼び出したとか、そういうワケじゃなく、単純に俺がヘタレだっただけで……だから、お前が想像するような、それなりの理由というのも別になくてだな」


 また、言葉が虚空をさまよう。

 本題に入ろうとすればするほど、

 態度がどんどんヘタレてくる。


 今のセンにとって、黒木という美少女は、

 凶悪なGOOなんかよりもはるかに怖い存在。


(ああ、ムリだな、これ……俺、こういう話、むりだわ……うん、ハッキリした……むりだ。アウターゴッドは、まだ攻略できる可能性があるが、こっちの攻略は無理だ。どうしようもないムリゲーだ)


 ハッキリと、自分の性質を理解したセン。

 完全に心が折れてしまった。


(そもそも、無理があるんだよ。なんだ、四人同時に攻略って……イカれすぎだろ。彼女いない歴=年齢の童貞をナメんなよ。ムリムリ。絶対に無理でーす)


 心の中で、白旗をあげるセン。


 死んだ目で、


「黒木、実は、今後、アイテム探索を手伝ってほしくてな。最初に言った通り、俺は携帯ドラゴンをもっていない。だが、大半のアイテムは携帯ドラゴンがないと見つけられないだろ? だから、悪いけど、今後、夜の間、ずっと、アイテム探索を手伝ってほしくてな」


 ガッツリとヘタレて『逃げ』に回ったセン。

 


「アイテム探索ですか……なるほど。確かに、携帯ドラゴンがないのであれば、隠されている宝箱をサーチすることはできませんからね」


 そうつぶやきつつ、黒木は、

 頭の中で、色々な視点での推測を、

 高速で展開させつつ、


「……聞きたいことや、確認したいことはたくさんありますが、しかし、結論は変わらないので、とりあえず、あなたからの要望に対し、確定した返事をさせていただきます」


 などと、前を置いたうえで、

 コホンと丁寧なセキをはさみ、


「もちろん、喜んで手伝わせていただきますよ。これから、パートナーとして、よろしくお願いします」


 パートナーという部分に強いアクセントをつける黒木。


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