73話 思春期に少年から大人に変われなかった、壊れかけのヒーロー。


 73話 思春期に少年から大人に変われなかった、壊れかけのヒーロー。


 センが、


「そっちの言いたいことは予想がつくというか、分からざるを得ないというか、そういう感じではあるんだが、けど、でも、話を前に進められたら、と思っていなくも、いや、あの、えっとー」


 と、うだうだ、ずるずると、

 まったく要領の得ない言葉を並べていると、


 ――当たり前だが、

 電話はすぐに切られた。


「……」


 自室で独り、センは、


「うわ……だっさ、俺……ええ、俺、しょうもな……ヘタレすぎる……」


 自分自身の無様さに反吐が出そうになるセン。


 ゴロンとベッドに仰向けで寝転がり、

 天上を睨みながら、


「……もう、イヤだ……いろいろ……ニートになりたい……ぜんぶ、放棄したい……」


 渋い顔で、深いタメ息をつく。

 ぶっこわれて、ゆがんで、腐っていく。


 陥っている状況もそうだが、

 それよりも、何よりも、

 『そっち方面の話』をしようとした途端、

 『信じられないほど体が硬直して言葉が何も出てこなくなった』、

 という、自分自身の『童貞力』に、心底引いた。


「もう、ダサい、ダサい、ダサいぃ……」


 嗚咽しながら、センは、自分のダサさを反省する。

 反省はするが、しかし、今後も、

 自分の童貞感が払拭されることはないのだろうと思い、

 また、深いタメ息をついた。



 ★



 はからずも、黒木相手に、また、

 変態的なイタ電をかましてしまったセン。


 弁解の電話をしようとするも、

 しかし、何をどう言えば弁解になるのだろうか、

 などと、ずっとぐだぐだ考えつつ、

 ベッドの上で、ずっと天井を睨んでいると、

 ピンポーンと、チャイムが鳴った。


 そこで、センは、ようやくムクリと起き上がり、

 携帯で時間を確認すると、

 黒木に電話を切られてから30分ほどが経過していた。


(……踏ん切りがつかないまま、気付けば30分……おいおい……)


 本日何度目か分からない深いため息をつきつつ、


(勇気や根性だけは自身があったんだが……もしかして、俺って、世界一のヘタレなんじゃ……)


 などと、心の中でつぶやいていると、

 またピンポーンと、チャイムが鳴った。


 相手が誰か、ある程度、予想はついているが、

 しかし、だからこそ、なかなか出る気になれず、

 逡巡していると、


 今度は、

 ガチャガチャっという、だいぶ乱暴な音が聞こえてきた。

 そして、直後、ガチャッっと、開錠の音がして、

 ガラガラっと玄関の開く音がした。


 そして、家に上がってくる音。


「……空き巣、来たねぇ。ま、二回目だから、別に驚きゃしねぇけどねぇ……」


 センは、そんなことをつぶやきつつ、

 ドアの方に視線を向けた。


(佐田倉……じゃねぇよな、たぶん。すでに、黒木は俺の存在を知っているし……)


 などと心の中でつぶやいていると、

 自室のドアが、カチャリと、静かなテンポで開かれた。


 登場したのは、利発そうな黒髪でメガネの美少女。


「……よぉ」


 センが、軽く呑気な口調で、そう声をかけると、

 美しい空き巣――黒木愛美は、ベッドで横になっているセンをジト目で見つめながら、


「……さきほどのイタ電はどういうつもりのアレですか?」


 と、開口一番、『当たり前の疑問』をぶつけてきた。


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