9話 とっておき。


 9話 とっておき。


「……ぁ、あの……ほんとに、殺さないで……役に立ちますので……がんばりますので……努力だけは、それなり出来る方ですので……どうか……殺さないで……死にたくない……死にたくない……死にたくない……」


 無様に拝み倒すセンに、アダムは、


「道化に徹することで己の『無害さ』を演出する……それが通用する相手もいるだろうが、しかし、私が相手だと完全に悪手。仮に、貴様が本当に『無害な存在』だったとしても……もっと言えば、仮に『有益な存在』だったとしても、殺すことに変わりはない。ゴキブリは気持ち悪い。だから、殺す。以上」


「……有益でも殺すって……それは、さすがに問題があるのでは? 第二アルファほどの整った世界に、差別はいかがなものかなぁ。なくしていきましょうよ、差別反対」


「差別? 現状にはまったく当てはまっていない言葉。これは害虫駆除。それ以上でも、それ以下でもない」


 終始、無駄な泣き言をほざき続けるセンに、

 アダムは、凛とした態度で、


「いい加減、油断させようとする作戦は無意味だと気づけ。どうせ、覚醒するんだろう? 弱者のふりをしながら、何をうかがっているのか知らんが、私が、貴様を侮ることはありえない。私は、貴様が完全に死に絶えるまで、貴様の一挙手一投足から目を離さない」


 まっすぐに、センを睨みつける。

 研ぎ澄まされた蔑視の表情ではあっても、そこに油断の色は微塵もなかった。


「本物とは比べ物にならないとはいえ……貴様は、『主上様のパチモン』。主上様と比べれば、ハナクソ以下の生ごみであることは、疑いようのない事実……とはいえ、『主上様を模している』という、その事実がある限り、私の中で、貴様に対する警戒心が揺らぐことは絶対にありえない」


 『主上様』に対する絶対的な信頼と敬意が、

 そのまま、『目の前のセン』に対する『警戒心』に直結する。


 アダムにとって、『主上様』は、絶対の存在。

 強いとか、弱いとか、そんな次元の話ではなく、

 何をしても『絶対に、届かない御方だ』と認識している。


 アダムは、心底から『主上様』に心酔している。

 ゆえに、アダムは、『その劣化コピーである』と認識している『セン』を侮らない。


「――というわけで、さっさと覚醒しろ。私より強くなるというのなら、それでもかまわない。どんな絶望を前にしたとしても、それでも抗い続けるという意志を、私は、最後の最後まで示し続ける。主上様の右腕を名乗る覚悟の重さを思い知らせてやる」


 ギラついた目で、

 センに対して、覚悟を叫び続けるアダム。


 そんなアダムの様子を見て、

 センは、



「そこまで言うなら、仕方がない……『コレ』だけは、『主上様とやら』と対面する決戦の瞬間まで温存しておきたかったんだが……お前には、見せてやることにしよう……そのぐらい、お前は強かった。誇っていいぜ」



 そう言いながら、センは、

 全身に力を込めて、


「目をひん剥いて、よく見やがれ……これが……オメガレベル6000の壁を超えた、究極完全なる俺の姿だ!」


 叫んでから、

 腹の底に力を込めて、


「はぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る