8話 いい加減にしろ。それ以上、無様をさらすな。


 8話 いい加減にしろ。それ以上、無様をさらすな。


「魂魄の質は、主上様と天と地だというのに、顔だけは、ほんの少しだけ、似ていなくもない、という、貴様のその『ふざけたシルエット』が……純粋に、ハラ立つ。はやく、私の視界から完全に消えてなくなれ。めざわりの塊、うすっぺらなハリボテの集合体」


 話をまったく聞こうとしないアダムに、

 さすがに、イラっとしてきたセンは、



「……どんだけ……人の話を聞く気がないんだ……ふざけんな……ボケがぁ……調子に……乗るのも……たいがいにしておけよ、クソアマぁああああ!」



 奥歯をかみしめながら、


「温情のかけらも見せない相手に、いつまでも頭を下げ続けると思うなよ、ボケが。王を殺すのはいつだって奴隷だってことを……教えてやる!!」


 オーラをひねり上げて、

 全身全霊で、アダムの顔面めがけて殴り掛かるが、

 しかし、


「……いったぁ……」


 オーラと魔力でコーティングされたアダムの顔面は、

 あまりにもカッチカチが過ぎて、かすり傷の一つもつけられない。


 アダムは、まったく表情を変えずに、


「どうした? まさか、この私を、そんな脆弱な拳一発で殺せるとは思っていないだろう? 本当に抗う気があるなら、どんどんこい」


「いや、あの……骨が折れたっぽいので……もう殴れないかなぁ……と」


 一度は、『膨れ上がった激情』に奮起したものの、

 『正式な痛み』を伴えば、簡単に折れてしまう心。


 『自由になる』ということの意味。

 その『価値』を完全に見失っているセン。


 『芯の奥』にある『弱さ』ばかりが浮き彫りになって、

 『センエースらしさ』がどんどん希薄になる。


 アダムは、凍てつく声で、


「安心しろ。貴様はカスだが、再生力だけはそれなりに優秀。複雑骨折だったとしても、すでに治っているはずだ」


「いや、確かに、一見すると『戻った』っぽくはあるんですが、感覚的には、まだ折れているかなぁ……痛いなぁ……って……感じで……だから」


「安心しろ。まだ折れていようが何だろうが、私は手を止めない。貴様は死ぬ」


「どこに安心できる要素が?!」


 叫ぶセン。

 舞うアダム。


 全力で逃げ惑うセン。

 背後から容赦なく死をつきつけるアダム。


 バラバラになって、再生して、

 バラバラになって、再生して、

 バラバラになって、再生して、


 そんな、不毛な時間が一分ほど経過したところで、


「少しぐらいは、抗う意志を示したらどうだ? 貴様ほどプライドのないパチモンは、他に見たことがない」


「よそはよそ! うちはうち! そんなによそのパチモンがいいなら、よその子になればいいでしょ!」


「……」


「空気、なごみました? えへへ」


 何度でもいうが、余裕からくるギャグではない。

 ただ、必死に媚びているだけの笑み。


 それが、


「だからぁ……主上様に似たその顔でぇぇ……ヘドが出る無様をさらすなぁ……」


 アダムの怒りを、さらに増幅させる。

 鬼の表情でセンをにらみつける。


 センは、普通に、ブルブルと震えながら、


「……ぁ、あの……ほんとに、殺さないで……役に立ちますので……がんばりますので……努力だけは、それなり出来る方ですので……どうか……殺さないで……死にたくない……死にたくない……死にたくない……」


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