13話 スーパーヒーローではないのだ。


 13話 スーパーヒーローではないのだ。


「……SPをカナリアにするんじゃねぇよ。そんなことして、心が痛まないのか?」


「私は、自分にとって大事な人以外は、何人死んでもかまわないと思っているタチですので」


「ヤバい発言だな。そんなことじゃ、ヒロインにはなれないぞ」


「ヒロインになる気など、さらさらありません」


「スーパーヒーローが主役の物語を描いておきながら? それは通らないだろう」


「……私の作品の内容を、どこまでご存じで?」


「ほとんど知らん。ソンキーっていう、めちゃくちゃ強い主人公が大活躍する作品で、その作品に、茶柱祐樹が強い影響を受けた……ってことぐらいだ」


 ちなみに、この情報に関しては、黒木自身の口からきいた。

 黒木が、みずから話したのではない。

 彼女に、

 『カズナという橋渡しが無い状態で、スムーズに交渉を進めるための材料』を求めた時、


『ソンキーにまつわる小説のことを提示されれば、私は、間違いなくテーブルにつくでしょう』


 と提案を受けたので、

 今、それを実践にうつしている。


「あの子が、私の作品から強い影響を受けたかどうかは知りませんが……確かに、喜んでくれましたね。主人公の頭のおかしさが、あの子的にはウケたようで」


 そう言いながら、少しだけ遠い目をする黒木。

 すぐに、自分の世界から帰ってきて、


「あの子に『先』がないことは誰の目にも明らかでしたし、あの子は、頭のおかしい姉と違い、きわめて常識的かつ誠実な子でしたから、『小説の感想を求める相手』として適任でした。……まあ、一言で言うと『どうせ死ぬ相手だから、読まれても恥ずかしくなかった』という、それだけの話です」


 けだるげなタメ息を一つはさんでから、


「ツミカさんほどではないですが、私も、まあまあ壊れています。ソンキーは、そんな私の『歪(ゆが)み』を遠慮なくぶつけたキャラクター。『投影』ではありませんが、歪み方だけは強く寄せてあります」


 『歪みだけをぶつける』――それも、また、ある意味で自己投影。

 そんなことは、黒木もわかっている。

 しかし、それでも、彼女は、

 『投影ではない』と言い張る。


 ここに関しては、単なる『見栄』であり、『意地』ではない。

 黒木愛美は、自身のこだわりを重視するタイプ。


 ATフ〇ールドを張り巡らせて、

 冷めた目で世界を俯瞰して、

 まるで『ラプラスの悪魔』でも目指しているかのように、

 機械的かつ貪欲に知識だけを貪るキ〇ガイ。


「――ソンキーは、『自分が強くなること』にしか興味がない、とても非常識なキ〇ガイ。少年漫画の主人公のように、人情や愛情や友情を片手に、世の道理を説くような、そんなキャラでは決してありません」


「説明を聞いた感じ、カカロ〇ト的な印象を受けたな。だとすると、少年漫画のど真ん中だが?」


「……カカロ〇トの場合、根源の思想はともかく、なんだかんだ、命をかけて、世界を守るでしょう? ソンキーは、世界に興味がありません。『質の高い経験値』を追い求めていたら、結果的に、悪を一掃していた……それだけの話です」


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