12話 ソンキー・ウルギ・アース。


 12話 ソンキー・ウルギ・アース。


「……ちっ……こんな朝っぱらから……いい加減にしろ、ボケ、カス」


 そう言い捨ててから、電話を切ったカズナ。


 しばらく一緒に行動していた相手との決別。

 その余韻に少しだけ浸(ひた)ってから、



「これでいい」



 ボソっと、そうつぶやくと、

 センは、違う相手に電話をかける。


 数回のコールのあと、


「……はい……誰ですか?」


 カズナ同様、

 警戒して、自分の名前は名乗らない。

 美少女のファイアウォールは、基本的に、なかなか厚い。


 そんな彼女――黒木愛美に、


「お前が小三の時に書いていた自作小説の主人公の名前は……ソンキー・ウルギ・アース……間違いないな?」


「っっ?! な……なんで……」


「お前は、その自作小説を、茶柱祐樹にしか読ませていない。そして、祐樹は、『作品について誰にも言わないでほしい』というお前の願いを無碍(むげ)にするようなヤツではない。よって、言うまでもないが、あいつから聞いたわけじゃない」


「……」


「お前は手書き専門で、当然、ネットには一文字たりとも上げていないから、ハックによる盗み読みは不可能。原稿は、中学の時、すでに、自分の手で燃やしている。理由は、いつ死ぬかわからない世界に身を賭すようになったから。もし、お前が死んだら、当然、親が、お前の部屋を片付ける。その時、見られて恥ずかしいものは先に燃やしておいた――」


「――もういいです」


「まだまだ、お前について知っているぞ」


「……どうして……」


「会って話そう。全て、伝える」


 集合場所と時間を伝えてから、


「一つだけ命令。一人でこい。他のやつを連れてくるな。その理由も、全て話す」


「……」


「絶対に一人でこい。もし、この命令をシカトしたら、連れてきたヤツ、全員、殺す。大事なことなので、もう一度言う。連れてきたヤツは、全員、殺す。――俺がその気になれば、『トランスフォームをした紅院10000人』を相手にしても、アクビまじりに瞬殺できる。疑うなら、お前自身がかかってこい。お前も携帯ドラゴンを持っているんだから」


「……っ」



 ★




「つれてくるなっつったろうが……二度もよぉ」


 足元で倒れている『黒服グラサンの男』を横目に、

 センは、黒木を睨みつけて、


「黒木……どういうつもりだ? 俺をナメてんのか?」


「こうしたほうが、あなたの人間性が分かるかと思いまして」


 そう言いながら、黒木は、倒れているグラサンに近づき、

 脈・呼吸・眼球運動を確認したのち、


「……どうやら、殺してはいないようですね」


「……」


「電話で話した感じ……あくまでも『なんとなく』ですが……あなたは、非道な事はしないような気がしました。もし、あなたが『ヤバいサイコ』でも、私に用事があるのであれば、SPを殺すだけで、私には手を出さないだろうとタカをくくってもいました」


「……SPをカナリアにするんじゃねぇよ。そんなことして、心が痛まないのか?」


「私は、自分にとって大事な人以外は、何人死んでもかまわないと思っているタチですので」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る